将来を不安がるより「いま」を大事に生きる

そんな彼女にも一度だけ、営業部を離れた時期がある。グループ会社の「J-オイルミルズ」に出向し、開発企画室に勤務した3年間である。そのときの体験もまた、彼女にとって大きなものとなった。というのも、当時は2度目の育児休暇を終えたばかり。東京に単身赴任して、油の新商品の開発とマーケティングに携わったからだ。

「ちょうど夫が資格試験を受けるために仕事を辞め、子育てを任せられるタイミングだったんです。食品会社に入ったからには、マーケティングの仕事はどうしてもしてみたかった」

月曜日の始発の新幹線で東京へ向かい、金曜日の夜に大阪の自宅へ帰るという生活が3年間続いた。

Holiday Shot!【写真上】白樺高原国際スキー場にて。毎年お正月、千葉の実家に帰省した際、白樺湖周辺のスキー場に寄るのが家族の恒例行事。【写真下】ボランティア活動にも力を入れる。写真は「ヤングアメリカンズ」というイベントに参加したときの一コマ。

「子どもたちには寂しい思いをさせてしまったし、いま同じことをやれと言われたらできない気がします。でも、それを乗り越えて営業以外の仕事に立ち向かったことは、大きな自信につながったと感じています」

保育園に預けるたびに泣いていた子どもたちも、小学生と中学生になった。大阪支社へ戻った後、営業グループのリーダーとなった彼女は、そうした経験の一つ一つが「仕事の幅」を押し広げ、自分の人生そのものを豊かなものにしてきたと実感している。

「働いている女性には、分岐点がたくさんあります。結婚や出産後の環境の変化を想像すれば誰でも不安になるでしょう。でも、その一つ一つを人生の選択肢だと思って、ポジティブに捉えてしまえばいいと私は思ってきました」

そう語ると、「だから」と続けて彼女は笑うのだった。

「後輩からキャリアについて相談されたときは、『将来を考えて不安になるより、そのときベストだと思う選択をすればいい』といつも言っています。私だって夫がたまたま仕事を辞めたから、東京へ行くことになった。人生で何を選択すべきかなんて、そのときになってみないとわかりません。“いま”に集中することが、最終的には仕事を続ける自分を支えてくれるのです」

■岡村さんの24時間に密着!

5:30~6:30 起床/子どもの朝食準備
6:30~8:00 自宅出発
8:00~8:30 出社
8:30~9:30 メールチェックなど
9:30~11:00 グループメンバー打ち合わせ(プレゼン準備)
11:00~12:00 グループメンバー打ち合わせ(会議準備)
12:00~13:00 昼食
13:00~16:00 得意先訪問
16:00~18:00 帰社/内勤
18:00~21:00 得意先会食
21:00~23:30 帰宅/翌日の夕食準備/子どもの学校準備/洗濯など
23:30~5:30 就寝

【写真左から順に】見落としがないよう、丁寧にメールをチェックする。/部下から取引先の報告を受けながら作戦を練る。/営業車に乗って担当エリアの取引先へ向かう。/夏の盛りに、秋冬用商品のプレゼンが始まる。
 
岡村由紀子
味の素 大阪支社家庭用第2グループ長。1992年入社。2001年、J-オイルミルズ社の西日本支社へ出向。育児休暇を経て、合併業務に携わる。2度目の育児休暇を取得後、東京の開発企画室を経て、2009年7月、味の素大阪支社へ異動。2014年7月より現職。

撮影=村山嘉昭