下手に褒めれば信用を失うリスクが

さて、これだけ褒められたいと考えている、少なくとも心の底でこそっと思っている人が増えている中で、皆さんはどう振る舞えばいいのでしょうか。もろちん、このコラムの読者の皆さんは、褒められたいという欲求に打ち勝ち、なおかつ、周囲の承認欲求を満たしてあげる立場の人である、という前提です。上司や先輩から、褒められたいとウズウズしている若手を満足させるために何をするべきなのか。

「単純に褒めてあげれば、そういう人は満足するんじゃないの?」という声が聞こえてきそうですが、残念ながらそうは問屋が卸しません。褒められ慣れている、いわゆる褒めインフレ(いま、私が作った言葉です)にさらされている人たちは、普通に褒めても納得はしません。むしろ「適当に言っているだけでしょう」とうがった見方をして、皆さんへの信頼を損ねてしまいます。

手間がかかりますが、褒められたいと渇望している人たちへの上手な褒め方のポイントは2つ。まずは『褒められたいと思っている点を、ピンポイントにシンプルに褒める』ことです。

「あなたでなければならない」と褒めれば納得が得られる

例えば、自分の長所に自信のあるタイプだと、その部分を日常の行動の中で、ことさら強調します。得意な仕事をやり遂げるだけだと、上司や先輩として「成長がないな」とガッカリしてしまいそうですが、ここは我慢。何度でも繰り返し「任せて安心だ」とか「さすがにすごいね」と、それこそ短い言葉でいいので褒める。褒めて欲しいとこっそり思っている部分を改めてきちんと認められて、そこを素直に褒められて、嫌な気になる人は誰もいないのです。逆に短所を克服しようとしている人は、その成果が出る出ないに関わらず、頑張っていること、つまりはプロセスを評価されたがります。もちろん「結果がすべてだ」と言いたい気持ちはわかるのですが、そこもグッと我慢。頑張っていることそのものに気が付いている、見守っている、理解していると意思表示することで、相手は認められたと安心するはず。

もう1つは『その人を、ちゃんと見て褒める』ということ。ソーシャルメディアの投稿に褒めるためのボタンが押された当初は、それ自体が喜びになりますが、日々押され続けていると、押した人たちのことを「この人は、投稿内容を細かく見ないで、誰にでもいいね!しているよね」と、承認してくれる人の評価を下げてしまうケースが少なくありません。書いていてなんだか面倒くさい世の中だなと私も思います。が、確かにそうかもしれないと、誰かの顔を思い浮かべた人も、少なくないはずです。

簡単に褒める仕組みが整ったことによって、人の褒められたい願望が抑えられなくなり、その結果“褒める技術”を高める必要が生まれた。と考えると、意外といいことなのかもしれませんね。以下のボタンから「このコラムはいいですね」と、私をカンタンに褒めることができるので、できれば、よろしくお願いします(褒められたい 笑)

サカタカツミ/クリエイティブディレクター
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。