口火を切ること、失敗に耐えることが仕事

【原田】特命担当部長になってから、たくさんの挑戦的な取り組みをされています。現時点で、それぞれの施策の手応えはいかがですか。

【北川】2015年夏には、全社キャンペーンである「2015 ISETAN IRODORISAI 彩り祭」の中で、デジタルとファッションの融合による新しいライフスタイルを提案する、ということに挑みました。デジタル技術を使って仮想的に試着ができ、その情報を共有できる姿見、3D生地プリンターによる洋服作り、人工知能(AI)を使ったコーディネート提案、ロボットやウェアラブルデバイスなどを紹介しました。この他にも、目的の売り場へご案内(ナビゲーション)をするスマートフォンアプリのローンチなど、多くの実験的な取り組みを行いました。

正直なところ、勝率は高いわけではなく、デジタルの世界とはいえ、挑戦してみないと分からないことが本当に多いことに気づきます。「やってみよう」と言うこと、失敗に耐えることが、私の仕事だと思っています。

【上】2015年8月26日~9月8日開催の「2015 ISETAN IRODORISAI 彩り祭」では、最新デジタル技術と最旬ファッションが融合した「彩りの世界」を軸に、伊勢丹新宿店全館で秋の訪れを発信した。【下】デジタル技術を活用したバーチャルフィッティング体験の様子。(画像提供:三越伊勢丹ホールディングス)

【原田】本当に大変そうですね。

【北川】大変ですが、おもしろいです。これは尊敬する先輩に教えていただき、本当にその通りだと思ったことですが、“インターネット以前”は、性別、職業、年収などで特徴を割り出し、「こんな仕事をして年収がこれくらいの女性は、こんなものをこういうタイミングで買う」などと分析していました。しかし、“インターネット以降”は、個人の中の多様性が切り分けられるようになり、マーケティングのやり方が変わりました。年収が高い人が、いつも高級レストランで食事をしているわけではありません。コンビニでおにぎりを買ったり、ファストフードを食べたりもします。性別、職業、年収などでは割り出せない、すごくマニアックな趣味を持っているかもしれない……、つまり、お客様とのコミュニケーションのあり方を考え直さなくてはならなくなったということです。

【原田】実はそれは、百貨店の得意とする「外商」の発想ですよね。ITが外商の方向に行くのは、自然な流れなのかもしれません。

【北川】その通りだと思います。ツールは変わるかもしれませんが、根底にあるのは、人の心を動かすことなので。