「何を売りたいか」ではなく「どんな関係を作りたいか」

【北川】経営的なインパクトは、おそらく「デジタル化により業務を効率化する」という面が大きいはずです。しかし、効率化ももちろん必要なのですが、それだけではありません。

例えば、新宿伊勢丹は「世界最高のファッションミュージアム」をテーマにしています。暮らし方や生き方すべてをファッションと定義するならば、百貨店は人々の暮らし方、生き方をより豊かに、格好よくする役割を担っている。テクノロジーが生活にどんどん入り込んでいるのですから、百貨店もテクノロジーを組み込むことで、どうしたら生活を豊かにできるのか、提案できなくてはなりません。すぐにお金になりそうには見えないかもしれませんが、苦しくても百貨店が取り組むべきテーマだと考えています。

原田博植(はらだ・ひろうえ)さん。株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 アナリスト。人材事業、販促事業、EC事業にてデータベース改良とアルゴリズム開発を歴任。2015年データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー受賞。

【原田】三越伊勢丹のデジタル化は、単純な効率化だけではないということですね。百貨店は特に、街や店内の雰囲気が重要で、足を運んで店員さんとやりとりしながら購入するというプロセスを楽しんでいる人も多くいらっしゃいます。デジタル化によって、これら体験の部分をどうやってより魅力的にするか、ということでしょうか。

【北川】百貨店はやはり、お客様と深くつながり、店頭へ来ていただくことに大きな価値があります。来てくださる人を精神的に豊かにする場所であるべき。「どうやってモノを売るのか」だけではなく、「どれほど豊かな時間を過ごしてもらうか」が重要です。デジタル化を考える際にも、最初に考えるべきは「何を売りたいか」ではなく、「お客様とどんな関係を作りたいか」です。

テクノロジーの話に寄ってしまうと、「あれもできます、これもできます」とお客様に必要のない機能をも押しつけてしまうことが起こりがちなので、それを避けるために、本当に百貨店が提供すべき価値は何かを慎重に吟味しています。