待機児童対策に個性があってもいいが親子のニーズをふまえて

冒頭の表を見ると、認可保育園を短期間で増やしたが園庭保有率が低い、認可保育園の増え方は下位だが認定こども園や小規模保育が多いなど、整備のやり方には自治体によって個性があることがわかります。それぞれ地域の事情があるとは思いますが、親が安心できて子どもが健やかに育つ保育を整備しなければ、数だけ足りてもやがて問題が発生するでしょう。

この調査では、認可の保育のうち認可保育園を第一希望とした申込者の割合を聞いていますが、認定こども園が多数ある区以外の区は、ほぼ100%近い申込者が認可保育園を第一希望としたと回答しています。このことは、2歳までを対象とする地域型保育(小規模保育、家庭的保育)の「3歳の壁」が親にとってプレッシャーとなっていることの現れです。3歳以降の受入れ先となる連携施設の確保が課題ですが、認可保育園、認定こども園に加えて、幼稚園との調整というのも今後必要になってくると思います。

期待される区の調整力、東京都・国のテコ入れ

[区の調整力]

地域型保育の連携協定の調整もさることながら、認可保育園の用地確保等でも、もっと自治体の調整力にモノを言わせてほしいと思います。国有地・都有地・区有地などを最大限に活用するのはもちろん、民有地も自治体が借り上げたり事業者とマッチングしたり、大規模マンション開発では保育施設併設を誘導するなど、保育課の人員を増やして取り組むべきだと思います。自治体には「ハコもの」をつくって過剰になったらどうするという不安もまだに大きいようですが、高齢者のグループホームなど、地域が求める福祉サービスへの転換は可能だと思います。

[東京都のテコ入れ]

東京都は日本で最も裕福な自治体です。そして、最も待機児童問題が深刻な自治体です。その財力をもっと待機児童対策に活かすべきです。

東京都はかつて「公私格差是正補助金」という民間保育園の職員の給与改善のための補助金を出していました。そのため、都内の民間保育園は比較的ベテラン保育士が多かったのです。都は2000年にこの補助金を廃止し、その後、民間保育園は職員の給与を切り下げざるをえなくなりました。今となっては、WHY? TOKYOTO WHY? と言いたくなりますが、東京都もそう思ったのか、2015年度から「保育士等キャリアアップ補助制度」という新しい制度を始めました。効果のほどは知りませんが、とにかく今、東京都が待機児童対策のためにできることは、とても大きいはずです。

[国のテコ入れ]

保育士不足は全国的な問題ですから、保育士の処遇改善にはなんといっても国のテコ入れが不可欠です。今後、国会でも論点になってくると思いますが、子どもたちの未来がかかっていることを念頭において、真剣に議論していただきたいと思います。

以前にも、2008年に設けられた安心こども基金で認可保育園の新設が進んだことを書きましたが、とにかく国が財源を確保しないと、かけ声だけではダメなことを私たちは体験済みです。

地方分権改革と称して、2004年に公立保育園の運営費が一般財源化され、国から直接の補助金を受けられなくなったことがつくづく悔やまれます。認可保育園の半分近くを占める公立保育園の運営費をすべて市区町村の財源から出さなくてはならなくなったのです。これが市区町村の保育予算を圧迫し、待機児童対策を抑制したことは明らかです。

保育施策に関するケチケチ作戦は失敗でした。巻き返しを期待します。

保育園を考える親の会代表 普光院亜紀
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』『共働き子育てを成功させる5つの鉄則』(ともに集英社)、保育園を考える親の会編で『働くママ&パパの子育て110の知恵』(医学通信社)、『はじめての保育園』(主婦と生活社)、『「小1のカベ」に勝つ』(実務教育出版)ほか多数。