●過剰な期待を抱かないことも大切

イラスト=Takayo Akiyama

不妊治療の名医の間でも、意見は全く異なります。着床前診断に賛成というIVF大阪クリニックの福田先生の話です。

「多くの患者さんが言われますが、流産したら次の妊娠が怖くなります。流産と聞くだけでも泣きだす人もいます。世の中には、『流産を繰り返しても、最終的に子どもはできる、だから命の選別につながる着床前スクリーニングは不要』と言う人もいますが、私は承服できません。現在でも複数個の採卵をして受精卵が多数できます。その中で形の良いものを選んで子宮に戻します。胚盤胞移植では培養期間を5日間に延ばし発育の良いものを選びます。これも命の選別ではありませんか? さまざまな努力をして流産を減らし、また妊娠率を上げようとしています。正常な胚を選んで戻したい、という願いは患者さんの権利では。患者さんのために全力を尽くす、これは医師の倫理の根本ではないでしょうか」

子どもを心待ちにする女性が流産により、身も心も傷つくのは間違いのない事実でしょう。取材した女性の中には、流れてしまった子どもの数だけ、お墓を作って毎年その日がくると、お参りをしているという人もいました。そうした話を聞くたびに、流産が防げたら、と思う気持ちも積もります。

ただし、着床前診断で予防できる可能性があるのは、受精卵側に問題がある場合の流産です。全流産の2割程度は母体側にその原因があるため、こうした流産は残ります。また、受精率や着床率などが上がるわけではありません。着床前診断に過剰な期待を抱かないようにすることも重要です。

そして前述したとおり、この診断では、生きる可能性のある命の芽まで摘んでしまうこともありえます。それが短い命であったとしても、障害の可能性があったとしても、安易に命を選別することは慎まなければならないはずです。こうした点も、しっかりと議論を積み重ねてほしいところです。

福田愛作
IVF大阪クリニック院長。1989年京都大学医学博士取得。米国東テネシー州立大学体外受精ラボディレクターを務める。日本人として初めて米国バイオアナリスト協会(ABB)IVF培養室長資格(HCLD)を取得。

イラスト=Takayo Akiyama