保険診療適用から2年「乳房再建」が女性を救う

シリコンではなく、自家組織(背中の広背筋や、腹部や臀部の一部など)を使う方法があるが、本人の違和感も強いという。特に広背筋使用は神経がつながっているので、胸なのに背中を触る感覚があるとも! また、妊娠の可能性がある場合は、腹部の肉を使えない。シリコンでの乳房再建は、それらを解決する術でもある。

「それまで乳房再建をやっている形成外科医には『美しくつくる』ということにこだわっている人がほとんどいませんでした。それでなんとしても、僕の手術技法を周知したかったんです」。そこで当時、30歳を超えたばかりの前田さんは、まさかの行動にでる。患者に許可を得て自分の手術を撮影し、それを自分で編集してDVD を作ったのだ。その自主編集のDVDは反響を呼び、後にシリコンメーカーが販売する医療教材となった。

2013年、手術を700例くらい重ね、専門医として実績を積んだあたりから、前田さんは学会に呼ばれて発表をするようになる。当時、保険診療ではないシリコンでの乳房再建手術に反発は多かったが、それでも彼は啓蒙活動をあきらめなかった。粘りの人でもあるのだ。

「乳房再建が保険診療になったことで、これまで100万ほどかかっていた手術費が安くなり、誰でも受けやすくなりました。若い患者さんもそうですが、70代の方まで希望されるんです」。美しくなれると、女性は誰でもうれしい。医療が提供できる施術を最大限に発揮して、患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を上げたいと、前田さんは考えている。

それらを称して前田さんは「均霑化(きんてんか)=平等に恩恵や利益を受けること」という言葉でつないでくれた。「保険診療の適用で、誰もが乳房再建手術を受けやすくなったこと、これがひとつの均霑化。一方で僕らが有明病院で、全国の先生方に乳房再建手術の指導することで、日本中どこでも等しく再建医療が受けられるようになる、これも大切なことなんです」