「もともと料理やお菓子作りが好きで製菓も一通り学んだのですが、学んだからこそ痛感しました。私のお菓子作りは趣味の範囲だ、と。それでも何かお菓子に関わる仕事がしたいと探していたとき、求人誌から切り取っておいた募集広告を思い出しました。早速面接に出向くと、稲村が“お菓子を売るプロの販売員が欲しい”と熱心に話してくれました。これだ! とピンときましたね」

通販でいろいろ買える時代。しかし、対話を通してお菓子とともに真心も手渡し、お客さまの心を動かす。「ヴァンドゥーズ次第でお店の売り上げは大きく左右される」と語る稲村シェフは、パティシエだけが「スター」になるのはおかしい、と考えている。パティシエとヴァンドゥーズが一致団結してこそ、お客さまに愛されるお店になる。こうした考え方に岩田さんは共感し、自分の夢を重ねて懸けた。

当初、稲村シェフは「クールすぎて親しみやすさが足りないな。もったいない」と岩田さんを評したという。自分では意外で驚いたというが、他人から自分がどう見えるかを認識し、接客方法を調整するのも大切な仕事。各自の個性を活かしつつ、すべてのヴァンドゥーズが最適な接客ができるようにスキルと心構えを伝えていきたいと話す。入社して12年経った今も日々勉強中と謙遜するが、「これからもずっと続けていく天職です」と目を輝かせた岩田さんだった。

【写真左】最近、免許をとって「いつか赤い車に乗って走りたい」という夢を叶えた。通勤時間が楽しくなったそう。【写真中】現在、全国に約250人存在する認定ヴァンドゥーズ。資格取得者が着けるバッジ。【写真右】岩田さんの著書『わたしはヴァンドゥーズ』と全日本ヴァンドゥーズ協会の教材。
岩田知子(いわた・ともこ)
一般社団法人 全日本ヴァンドゥーズ協会副会長 パティシエ イナムラショウゾウ シェフ・ヴァンドゥーズ。東京都生まれ。二葉栄養専門学校卒業。複数の企業で販売・サービス業、デザートコーディネーターを経験。製菓の基礎知識を習得し、2003年、パティシエ イナムラショウゾウに入社。現在に至る。

撮影=大槻純一