いかに自然な美しい胸をつくるか

有明病院は患者の受け入れが多いがんの専門病院というばかりではなく、研究機関としての機能も兼ね備えている。ここに単なる乳房再建の腕がいいというだけのドクターではない、前田さんの形成外科医としての矜持がある。

「この病院に勤務し始めてすぐ、手術に卓越した技術を持つ形成外科医に出会ったんです。その先生には乳房再建に限らず、さまざまな技術を教えて頂きました。その先生の指導のもと、がむしゃらに働いてきた結果、徐々に大きな仕事を任せてもらえるようになったんです」

現在、前田さんは乳房再建についての学会発表をしたり、全国から研修に来る形成外科医への指導も積極的に行っている。そんな活動に影響を与えたのは、前述のドクターのひと言だった。「ある時その先生に、『これだけの手術件数をやっていることは、後進に伝える意味があるってことを忘れないように』と言われて……。自分の役割の重さに、気がついたんですね」

「患者さんのために、いかに美しく自然な胸をつくるか。これはQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上にもつながることです。そこはとても綿密に患者さんと対話しています。一方で、患者さんが満足してくれる乳房再建の技術を広く伝えることも大切な仕事です。このがん研有明病院は、全国から医師が勉強にいらっしゃる研修機関でもあります。現在37歳になりましたが、年配の医師に指導医扱いされるのはおこがましいと思うんですが、全国に治療を必要としている乳がん患者さんたちのために、僕にしかできない乳房再建技術を、一生懸命伝えています」

取材に伺ったのは平日の夜。インタビューを終えて、私服で対応してくれた前田医師は、白衣を脱いでもいい男であった。このあと、担当患者の待つ病室へと颯爽と向かっていった。
森 綾(もり・あや)
大阪府大阪市生まれ。スポーツニッポン新聞大阪本社の新聞記者を経てFM802開局時の編成・広報・宣伝のプロデュースを手がける。92年に上京して独立、女性誌を中心にルポ、エッセイ、コラムなどを多数連載。俳優、タレント、作家、アスリート、経営者など様々な分野で活躍する著名人、のべ2000人以上のインタビュー経験をもつ。著書には女性の生き方に関するものが多い。近著は『一流の女(ひと)が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など。http://moriaya.jimdo.com/

ヒダキトモコ
写真家、日本舞台写真家協会会員。幼少期を米国ボストンで過ごす。会社員を経て写真家に転身。現在各種雑誌で表紙・グラビアを撮影中。各種舞台・音楽祭のオフィシャルカメラマン、CD/DVDジャケット写真、アーティスト写真等を担当。また企業広告、ビジネスパーソンの撮影も多数。好きなたべものはお寿司。http://hidaki.weebly.com/

撮影=ヒダキトモコ