働き盛りの30代~50代、時間はすごい早さで過ぎていく。その激しく忙しい毎日を切り裂くようにやってくるのが「親の老い」「介護」「別れ」だ。

亡くなった人の銀行口座やクレジットカード、運転免許証はどうすればよいのか? 実家を畳むならば何からどうするのか? 改めて問われ、答えに詰まってしまうことばかりだ。直面した時、どれだけ明確に答えられるだろうか。

大半の人はその時になったら考えればいい(考える必要もない)と思い、生活しているのでは? 「親を送る」ための万全の準備など不可能に近いが、少なくともその日は必ずやってくると認識し、受け入れる心の窓を時折開けて、風を通しておくことが必要だと、本書を読み感じた。

――親の老いと死を書くことは、親の長い人生に思いを寄せつつ、辛かったあの期間を追体験することであり、私自身の来し方を振り返って頭を打つことだった。
(本書 「あとがき」より抜粋)

父の看取りの追体験をするのが辛く、介護や親との死別の著作から目をそらしていた私であったが、書く方がその何十倍、何百倍辛いに決まっている。

井上さんは、「我が家族のプライベ―トな問題など、読者にはどうでもいいのではないか? 不遜ではないか?」と執筆が進まず、この作品を書くことをあきらめそうになった時、編集者の「100人いれば100通りの親の送り方がある。その一例でいいのです。思いの丈を打ち明けてください」という言葉に励まされて書き上げたという。

「親の送り方」に完璧な答えなどない。だから考える、だから行動する。あなたが、最後に親と会ったのはいつですか? 話したのはいつですか? 電話、手紙、メール、伝達手段は何でもいい。自分の言葉を伝えることから始めてみませんか?