民泊のメリット、デメリット。立場次第で異なる見解

問題は現実はそうした議論とは別にどんどん進んでいるというところである。さらに問題を面倒にしているのは立場によって民泊はチャンスにも、悪夢にもなるという点だろう。投資家、不動産会社など不動産を所有する人たちからすれば、Airbnbは投資、空き家活用のチャンスだが、マナーの悪いゲストに利用されてしまった隣人には降って湧いたトラブルになりかねないからだ。

既に、夜中に鍵を探して全戸がノックされる、深夜まで大騒ぎする、敷地内にゴミを放置するなどの例が報告されており、賃貸物件を勝手に転貸した挙句の契約解除もしばしば耳にするようになった。

儲け話と意気込む人を相手に、Airbnbコンサル詐欺までが登場している始末だ。大田区ではゴミ、騒音を近隣への迷惑行為と考えており、近隣への周知、事業系ゴミとしての処理などを義務づけているが、それだけで不安、反対の声が無くなるとは思えない。

特に所有者の多くが居住者である、実需型のマンションでは民泊利用は住環境の悪化、資産価値の減少と考えられる。そのため、一部のマンションでは管理規約を改正するなどの手で民泊利用を阻止しようとしているが、都心部ですでにオフィス利用、賃貸利用が多い物件では逆にチャンスと見るケースもある。また、都心部のタワーマンションなどでは実需層よりも、外国人、投資家の購入者が多いケースが出てきており、そうした物件は投資商品化していくことになろう。

テロ対策、周辺物件の家賃高騰。
地域としての対処法も課題

近隣への迷惑だけではない。違法薬物、感染症、売春、そしてテロその他犯罪についての懸念もある。昨年11月のパリの無差別テロでは犯人は本人確認の甘い民泊施設を利用したとの報道もあり、大田区の条例でも施設利用時、使用終了時の本人確認などが盛り込まれている。だが、実際のAirbnb利用ではホストに会うことなく、宿泊可能な例もあり、本人確認はホスト次第。テロ対策として考えると、かなり甘くなることは否めない。

Airbnb、民泊の激増で、街の情報発信のあり方も変わる。暮らすように快適に滞在することで、それぞれの旅を楽しみたいものだ。

もう1つ、AFP通信が2015年5月に伝えたところによると、世界一Airbnbの多い街パリではAirbnb使用のほうが、賃貸使用よりも収益が高いことから、家賃が大幅に上昇、中心部から居住者が減り、小学校などでの学級閉鎖が起きる、治安が悪くなるという問題も起きているという。そのため、パリ市当局は違法にAirbnbとして利用されている賃貸を摘発する作戦に出たが、宿泊施設不足の都心でもこうした事態が起こらないとは限らない。

以上、Airbnbを中心とした民泊の現状を見て来た。個人的にはAirbnbに代表されるシェアリングエコノミーの進展には賛成である。冒頭に挙げたような、わざわざでも行きたいようなAirbnbが日本のあちこちに生まれれば日本全体が面白くなるし、空き家にも活用の道が広がるケースが増えるだろう。だが、都会の、収益最優先のやり方が生む不利益は今後拡大する可能性がある。

本来は都会と地方、業として行う法人と個人営業など、現場での利用状況の違いを踏まえ、行政が問題の全体を見た対処を考えるのがベストだろうが、まだ当分は混乱が続くものと予想され、しばらくはグレーな状態が続くものと思われ、利用する人、投資する人、近隣に住まう人はそれぞれのメリット、デメリットを踏まえた上で自分がどう対するかを考える必要がある。考え方は人それぞれでいいと思うが、とりあえず、「自分だけが良ければいい」という考えだけは止めていただきたいものである。

中川寛子
東京情報堂代表、住まいと街の解説者、日本地理学会会員、日本地形学連合会員。
住まいの雑誌編集に長年従事。2011年の震災以降は、取材されることが多くなった地盤、街選びに関してセミナーを行なっている。著書に『キレイになる部屋、ブスになる部屋。ずっと美人でいたい女のためのおウチ選び』『住まいのプロが鳴らす30の警鐘「こんな家」に住んではいけない』『住まいのプロが教える家を買いたい人の本』など。新著に『解決!空き家問題』(ちくま新書刊)がある。