民泊誘導のW施策。
国家戦略特区と旅館業法緩和

この事態に対し、大きく2つの動きが出てきている。1つは民泊を需給バランスの調整弁として使おうという発想である。それが国家戦略特区という仕組みを使い、特区内では民泊を旅館業法の適用除外とするというもの。ニュースでも大きく報じられた東京都大田区の条例はこの仕組みの中での動きである。もう1つは旅館業法を主管する厚生労働省での旅館業法そのものの運用を緩和するという動きである。いずれの動きも規制緩和とまとめて伝えられることが多いが、実際の要件を見て行くと、本当に普及を目指しているのかは微妙なところ。以下、それぞれの動きを見ていこう。

最初に国家戦略特区についての概略である。これは2013年12月のいわゆる国家戦略特別区域法によって区域を指定、その区域内では土地利用やビジネス環境整備、雇用、医療、教育などの多分野において規制を緩和、特例を設けるなどして国際競争力の強化や国際的な経済活動の拠点の形成を図ろうというもの。民泊ばかりが取り上げられているが、実際の緩和、特例などの対象は実に多岐に渡っている。

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大田区における外国人滞在施設経営事業実施地域(大田区ホームページより)。黄色と緑のエリアが実施地域。羽田空港からのアクセスのよさが今後の民泊供給エリアとしての伸びを予想させる。

特区に指定されているのは東京圏(東京都区部に加え、神奈川県、千葉県成田市、千葉市)、関西圏、新潟県新潟市、兵庫県養父市、広島県今治市、福岡県福岡市、同北九州市、沖縄県、秋田県仙北市、宮城県仙台市、愛知県。ただし、東京都区部については最初の2014年の指定の段階では千代田区、中央区、大田区その他9区に留まっており、全域が指定されたのは平成27年になってからである。

つまり、2014年の時点で特区内での民泊は当該自治体が計画すれば旅館業法適用除外になれることは決まっていたわけだが、以降、それが現実化しなかったのは特区法ではアウトラインだけが定められており、詳細は各自治体の条例によるとされていたためである。地域に与える影響が多いことを鑑み、躊躇していたとも、誰が最初にやるか、様子を伺っていたとも言えるが、先陣を切ったのが大阪市であり、大田区であったというわけである。

【特区法での民泊を可とする施設の要件】

■施設を使用させる期間が7日から10日の範囲内で、施設所在地を管轄する都道府県(あるいは特別区、市)が条例で定める期間以上であること
■施設の各居室の要件
・一居室の床面積が25平方メートル以上であること(上記同様、所在地を管轄する自治体が認めた場合には要件緩和もありうるとされる)
・出入口及び窓は鍵をかけることができるものであること
・出入口及び窓を除き、居室と他の居室、廊下等との境は、壁造りであること
・適当な換気、採光、照明、防湿、排水、暖房及び冷房の設備を有すること
・台所、浴室、便所及び洗面設備を有すること
・寝具。テーブル、いす、収納家具、調理のために必要な器具又は設備及び清掃のために必要な器具を有すること
■施設の使用時に清潔な居室を提供すること
■施設の使用方法、緊急時における対処法などの情報を外国語で提供するなど外国人滞在客に必要な役務を提供すること
*国家戦略特区法施行令第12条を要約