季節変動の大きい事業会社は通年で捉える

今も昔もモロゾフの主力商品であるチョコレートは、その特質上、夏にはさほど売れません。となると冬に売るしかありません。そこで、その昔、売り時を新たに生み出すべく、バレンタインデーにチョコレートを仕掛けたのだと考えられます。

チョコレート以外にもケーキやプリンなどを販売している現在のモロゾフは、冬~春の商戦でできるだけ黒字を出すことで、夏~秋の赤字を上回るようにするという事業方針を取っていると予想されます。冬~春の商戦は、クリスマス、お歳暮、バレンタインデー、ホワイトデーと続きますが、クリスマスシーズンに次ぐ売り時であると思われるバレンタインデー、ホワイトデーシーズンを逃したら、通年で赤字に転落してもおかしくないでしょう。ひいては存続も危ぶまれる事態となるかもしれません。

もしこれがチョコレートだけを売るメーカーやお店であれば、多くの場合2月が大幅な黒字で、それ以外はほとんど赤字だと筆者は推測します。製菓会社が必死になったバレンタインチョコを広めたのには切実な業績背景があり、バレンタインデーとその返礼となるホワイトデーは、チョコレートメーカーをはじめとした製菓業界の年間売上を支えるための一大イベントだったのです。

以上、今回は製菓会社モロゾフについて見てきました。企業の決算情報については四半期報告書なども出ていますが、季節変動の激しい会社については四半期の業績ではなく、通年ベースで捉えることが大切です。四半期では赤字でも一年を通してみれば黒字ということもあり、短期的な業績では会社の事業を評価することができないのです。そういう意味でも有価証券報告書こそ最も有用な企業情報だと言えるのです。

秦 美佐子(はた・みさこ)
公認会計士
早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業など、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。