仕事のサイズの縮小化と「個人のやりたいこと」の怪しい関係

今のままではダメだと思った時に、じゃあどうすればいいのか、という方向性を決める道標として、多くの人が頼りにするのが「なりたいもの」や「やりたいこと」という自分の中にある気持ち。古くなりすっかりホコリをかぶって、心の片隅にしまわれていたあれやこれやを、改めて引っ張り出してきて眺めてみては、今の自分と重ね合わせて「良い・悪い」を考え出してしまう。結果的にやりたいことが明確になり、それを実現するための方法もある程度めどがつけばいいのですが、なかなか難しい。そんなことを思っていた矢先に、今度は職場で「ところで、あなたは何がやりたいのですか」と聞かれてしまう。

かつての企業は「このくらいの年は、この役職で、こういう役割で、このくらいの報酬」という、未来の枠組がある程度決まっているのが一般的でした。ですから、就活中から入社時にかけて「何がしたい?」としつこく聞かれたことが嘘のように、働き始めると誰もそんなことを聞いてこなかったはずです。しかし最近は、仕事そのものの細分化が進んで、大まかにあった「だいたいはこんな感じ」というルールが緩みつつあるのです。企業が社員にやってほしいことは明確にある。けれどもその多くは「いまやって欲しい」ことであって、そのアサインに追われた結果「かつては約束していた未来」がさらに揺らぎ始めたのです。

未来を約束しない代わりに「やりたいこと」をやらせる?

もちろん、多くの企業は従業員のキャリアプランに無頓着ではありません。むしろ積極的に関与しようという企業も増えています。しかし、かつてほどエスカレーター式に「乗ってさえいれば、目的地に連れて行ってくれる」といった感じの仕組みがあるわけではない。ある程度のキャリアプランを意識した仕事を用意するから、その中から「自分自身で考えて」かつ「自分がやりたいと思う仕事」を選んでくれ、という仕組みに変わりつつあるのです。やりたいことが分かっている、自分で考えて決めることができる人には、うってつけの仕組みです。しかし、一定の年齢以上の人には「急にハシゴを外された感」がある。

「自分で考えて決める」。文字にすると当たり前のことが求められるだけなのですが、そういう習慣がなかった、もしくは機会がなかった世代に対しては、なかなか骨が折れるシステムです。とはいえ、残念ながら「そんなことを急に言われても困る」と苦情を言っても、会社は取り合ってくれる相手ではないのです。見えないなりにも先を考えて、その上で本意ではないかもしれないけれども、用意された選択肢の中から、自分が(比較的)やりたいと思う仕事を選ぶしかない。確かに気がついたらそういう状況になっていた、という読者の方もいるはず。そう、知らず知らずのうちに追い込まれていたというわけです。