業績を伸ばすためには社員の働き方にも工夫の余地あり

有価証券報告書の【主要な設備の状況】をみると本社は岐阜県安八郡にあり、かつ自社物件のため、それほど設備費がかからないことが分かります。また、【事業等のリスク】によれば会社は特約代理店制度を採ることなく全国の電材・管材問屋に直接販売をしています。ということは、代理店への販売手数料がかかりません。

販売コストがどれだけかかるかは業界にもよりますが、テレビ局が広告代理店に支払う代理店手数料では売上高の15%以上となるケースもあります<関連記事「なぜテレビ局は利益率が低くても社員の給料が1300万円超なのか?」(http://woman.president.jp/articles/-/953)>。販売費がかなりの負担になることもあるということが分かります。未来工業はそこを極力抑えることで利益を増やしてきました。

また、社員の残業がないぶん、残業代や水道光熱費などを削減できるといったメリットがあります。

その他にも、300人以上いる本社にはコピー機が1台しかない、正門には守衛を置かない、人事部がない、お中元、お歳暮を贈らない、年賀状、寒中見舞いを送らないといったところまで徹底されているようです。さらに、コスト意識は全社員に浸透し、例えば席を立つ際には自分のデスクの上の蛍光灯を消すといった決まりまであるそうです。コストダウンに限らず、未来工業のユニークな試みについては、創業者・山田昭男さんによる書籍『日本一社員がしあわせな会社のヘンなきまり』 (ぱる出版) などでも紹介されています。より詳しく知りたいという人は、ぜひ手に取ってみてください。

今回は“日本一休みが多い上場企業”とも呼ばれる未来工業について、激務のテレビ局員との対比でタイトルでは便宜上「お休みマン」としましたが、それは決して社員が働いていないというわけではありません。業績を伸ばすためには、単に勤務時間を長くするだけでなく、いかに社員の休みを確保し、勤務時間内に効率よく成果を上げるかについて創意工夫を凝らすことも大切です。未来工業の例にみられるように、休みが多くても素晴らしい経営成績をたたき出すことも可能なのです。

激務でもいいから高い年収を望むのか、ワークライフバランスを取りながら程よい年収を望むのか。どちらを選ぶかは人それぞれですが、大事なのは企業を捉える際に、給与など特定の情報のみで判断するのではなく、業績とその背景や強みを分析してみるということです。そういう時こそ、会計リテラシーが役に立ってくるのです。

秦 美佐子(はた・みさこ)
公認会計士
早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業など、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。