さて、2016年の年明けからちらほらとメディアで取り上げられていたのが「嫁ブロック」という言葉である。転職活動をする男性が、内定を手にしたあとに妻の反対を受けて辞退する現象を呼び、拡大が加速する転職市場での業界用語だった。

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元日に“嫁ブロック”について報じた産経新聞。タイトルは『男の挑戦くじく「嫁ブロック」とは 「妻の反対で内定辞退…」 業界用語からみる夫婦の新たな関係』

それが年初の新聞で「嫁ブロックで男の挑戦がくじかれる」といったような報道がされ、「嫁ブロックとはなんぞや」「妻たちが夫の転職を反対する理由がふざけている」「年収ダウンや東京からの都落ちがイヤだとか、大手有名企業の名を失うのがイヤだとか、結局見栄でしかない」とネット界隈が湧いた。そんな文脈では、夫の転職に異を唱えて内定を辞退させる妻は「浅薄な考えの見栄っ張り女」と反感いっぱいにラベリングされ、そんな女たちと結婚している男たちは「妻を説得することもできず、内定辞退を先方に伝える時にも妻の反対を理由に挙げるような、情けない男」であると断じられることも多かったようだ。

「男たるもの、自分の行く道を自分で決められないとは情けない。妻ごときに意見されて泣きつくなどケシカラン!」というような昭和の日本男児思考かどうか知らないが、妻が夫の転職に意見や希望を述べること自体は生計や活動を一にする夫婦として当たり前のことだ。その理由が本当に単純な見栄でどうこうなのなら、そういう妻を選択してつがった夫もどこか似たもの夫婦であるはずで、彼もまた外側の条件が気になる、そういう男なのである。だが、妻の側から発される年収ダウンや勤務地変更への抵抗、勤務先企業のネームバリューというよりも異なる組織に移籍することへの反対は、必ずしも「女の浅はかな見栄」を原因に起こることばかりではない。

連れ添っている妻だからこそ分かる夫の適性や、そもそも転職を志した原因となる葛藤、その転職は本当に「挑戦」なのかそれとも「逃げ」なのか、妻の仕事や子どもの教育と友人関係、実家や義両親や親戚との距離など、妻の方が周りが見えていることは大いに考えられる。