男はつらいよ

【田中】でも、ここで急に男性の肩持つんですけど……かわいそうなんですよ、男は。だって子供の頃から、もっと上を目指しなさい、大きな夢を抱きなさいって言われてくるから。そうやって自分を必要以上に大きく見せることに慣れ親しんできちゃったんですよ。

小学校1年生の男の子に「夢は何?」って聞いたとき、「ボク、地方公務員!」なんて言ったら怒られるわけじゃないですか(笑)。でも、新小学校1年生の親に「子どもに就いてほしい職業」を聞くと、1位は公務員なんですよ。でも、子供が口にするのはスポーツ選手。「もっと大きなことを言いなさい」「大きなことをやりなさい」「男の子なんだから」と言って育ててきた挙げ句、自己肯定感が強すぎのモンスターになってしまう。それが今の中年男性だとするならば、彼らだけの責任じゃないんですよね。社会が男に「ビッグたれ」と要求してきたことのツケはありますよね。かといって、「身の丈を見ろ」と幼い頃から教えるのがいいことなのか? とも思うわけですが。

【上】『結婚したい女子のためのハンティング・レッスン』川崎貴子(総合法令出版)』【下】『<40男>はなぜ嫌われるか』田中俊之(イースト新書)

――なるほど……男性のほうが女性より、ハッタリをかますのがうまい人が多いのはなぜだろうと前から不思議に思っていました。そういう育て方にも原因があるのかもしれないですね。「ビッグになれ」と。

【田中】女の子はみんなと仲良くしなさいと「協調」するよう育てられてきて、男の子は「競争」するように育てられてきているんです。だから、その違いは出てしまいますよね。

――「夢を見ろ」と子どもに言いきかせておきながら、実際には親は公務員を望んでいるってちょっとかわいそうですね。だって、どこかで夢がポキッと折れる時がくるということですよね。

【川崎】今、婚活してる女性たちにもその気がありますね。今のアラサー世代の子たちは小さい頃から習い事も当たり前で、専業主婦のお母さんたちに「これから女の子は自分で自分を食べさせないとダメなのよ」「私みたいになっちゃだめよ」と言われて育てられています。それなのに、急に30目前になったら、「いつ結婚するの?」みたいな話をし始められるわけです。これって、「スポーツ選手になれ」って言っていた親が、急に「公務員になりなさい」と言い始めるようなものですよね。さんざん自分は幸せじゃないって言ってた母親が「いやいや、女の幸せはね……」なんて違うことを言ってくるわけですよ。

【田中】言われてみるとまったく同じですね。

――親って残酷ですね。親の期待問題ってあるかもしれないですね。

●“女のプロ”川崎貴子ד男性学”田中俊之 対談記事一覧
第1回 結婚を不安視する男、幻想から離れられない女
http://woman.president.jp/articles/-/866
第2回  「結婚はコスパが悪い」という男性が結婚を意識するのはどんなとき?
http://woman.president.jp/articles/-/893
第3回 上司をおだてることは、会社の不利益である
http://woman.president.jp/articles/-/896
第4回 女性たちよ、管理職になれ!
http://woman.president.jp/articles/-/903
第5回 結婚したいのにできない人に必要なこと
http://woman.president.jp/articles/-/925
第6回 「減点法」コミュニケーションの行く先は、破局しかない
http://woman.president.jp/articles/-/926
第7回 男はつらいよ~男は「競争」、女は「協調」
http://woman.president.jp/articles/-/927
最終回 「夫が家事を主体的にやってくれない!」となぜ怒ってはいけないのか
http://woman.president.jp/articles/-/928
川崎貴子
1997年に女性に特化した人材コンサルティング会社、株式会社ジョヤンテを設立。経営者歴18年。女性の裏と表を知り尽くし、人生相談にのりフォローしてきた女性は1万人以上。プライベートではベンチャー経営者と結婚するも離婚、そして8歳年下のダンサーと2008年に再婚を経験、「女のプロ」の異名を取る。9歳と2歳の娘を持つワーキングマザーでもある。著書に、『結婚したい女子のための ハンティング・レッスン』(総合法令出版)、『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』(KKベストセラーズ)など。
田中俊之
武蔵大学社会学部助教、博士(社会学)。1975年生まれ。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。2014年度武蔵大学学生授業アンケートによる授業評価ナンバー1教員。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめ、多様な生き方を可能にする社会を提言する論客としてメディアでも活躍中。著書に、『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)など。

構成=すずまり(鈴木麻里子)