――大塚家具は受付で個人情報を記入しなければ入店できない「会員制」システムが有名でした。久美子社長が撤廃したこのシステムのメリットとデメリットをめぐる意見の相違が前会長との間にあったとすれば、どのような点でしたか。

会員制システムを導入した1993年頃からしばらくは毎年160万戸程度、新築の着工がありました。まとめて家具をお買い求めになるお客様がたくさんいらっしゃったんです。一度に多くの種類の家具をご覧いただき、お客様のお部屋づくりのお手伝いをしたいと思いました。ただ、直接取引で仕入れた同じ商品を他社より安く販売するには業界の壁がありました。

作り手は良いモノを理解し、価値を認めて売ってくれる相手と取引したいものです。ですから、単に安売りをしたいわけではなく、良いモノをより多くの顧客に届けたいから問屋を通さずに仕入れたいという弊社の志は、取引先にはご理解いただけました。

ですが、業界では値崩れや価格競争を避けるため、定価表示からの値引き販売が慣例でしたから、弊社だけが割引価格を表示して販売するといろいろと具合が悪い。

そこで考えたのが「弊社の会員様だけにショールームで特別価格を提示してお分けする」という、取引先がエクスキューズできる策でした。当初はかなり厳格に入店条件を守っていただきました。潜入調査で来た競合他社も「実際は会員じゃなくても入れるのかと思ったら、違った」と驚かれたのではないでしょうか。

さらに、ショールーム方式は店内に店員をたくさん配置せずに済み、接客の効率も良かった。人件費のランニングコストをおさえることができたんです。

その結果、当時から人気が出ていた比較的高価な輸入家具の中には、市場の3分の1ほどの価格で売ることができるブランドもありました。大切な取引先が困ることなく、お客様にも喜んでいただけたシステムで、弊社の成長に大きく寄与したと思っています。

しかし2000年代以降、徐々に入店人数が減ってきました。もともと入店時に個人情報を書き込むなんてお客様には面倒です。それでもメリットが大きいと感じてくださっていた。それが時代の空気が変わり、デメリットと感じる方が増えたんですね。

家具業界も家電や化粧品と同じように小売が自由に値付けできるオープン価格が普通になりましたし、インターネットを誰でも使うようになり、お客様ご自身で情報収集し、「これ」と決めてからご来店されるケースが増えるなど、買い手側にも変化がありました。私も今、お客様の立場だったら、入店時のハードルが高いと躊躇(ちゅうちょ)すると思います。つまり、弊社の会員制システムは形骸化したのです。

一方で、このシステムは弊社の成長に欠かせなかった成功体験の象徴です。私もそれはよく分かっています。それでも残念だけどもうやめるべきと提案していましたが、ずるずると続けてきてしまった。しかし、もう断ち切らなければなりません。会員制システムについての意見の相違とは、こうした経緯によるものです。