平田さんが仕事や人生の波に乗るための姿勢は、“シンプルに考えていく”“「仕事が好きだ」「仕事を続けたい」という想いに素直に行動していく”ことだという。そう明快に言えるのは、悔しかった日、泣いた日を乗り越えてきたからだ。子供の入学式で休暇を希望し、立腹した上司から1時間怒鳴られ続けられたという記述もあった。1970年代、子育てをしながら働き続けることに、きっと葛藤もあったと思う。私はもう一度座り直し、一度目には見えてこなかった言葉の奥にある本質を、かみしめるように読んでいくことにした。

2年ほど前、縁あってある高名な役者さんと酒の席を共にしたことがあった。「最近よく若手の役者に、どうしたら一生役者で食べていけるようになれるのでしょうか? って質問されるんだよ」とその人は話し始めた。

彼は「そうだな、俺は運が良かったって思うよ」と答えたと言う。質問した若手の役者は「そうですか! 運ですか。運を呼びたいです!」と言って会話は終わったという。その人は苦笑しながらこう言った。「俺は運だと答えた言葉の向こう側をくみ取ってほしかったんだけどな。でも説明して分かることじゃないから。自分で恥かいて、悔しい思いして、這い上がって戦うしか、勝っていくしかないから」と。

本を読み終えた時、その役者さんとのたった一度の邂逅を思い出した。器の大きな人は必要以上に自分を大きく見せようとはしない。本書にさりげなく書かれている事柄一つひとつに、平田さんの真剣で、ひたむきな信念を感じる。読書の奥深さを改めて感じさせてくれた、自分にとって“怖い一冊”であった。