子供は産まない、起業に賭ける

「子供は産まないと決めている」

そう語ってくれたのは、アンナだ。Mon Blanc(モンブラン)など高級ブランド企業でプロダクトデザインやブランドマネジメントを手がけた後、Webサイトで商品やオブジェクトを360度表示できる高度なイメージ技術を持つ企業 Fast Forward Imagingを立ち上げた。

起業家のアンナは、投資家たちにも「子どもは産まない」と説明しているという。

現在、30代後半。「ずっと起業したいと思って、いくつかの挑戦の末に立ち上げたのが今の会社。何度か失敗したが、今度こそうまくいきそうだ」と目を輝かせて話す。女性であることが起業にとってデメリットだと感じたことは数えるぐらいしかない。「いい意味で注目されるし、覚えてもらえる」と前向きだ。子供は起業するずっと前から持たないと決めており、投資家にも最初から子供は持たないと説明しているという。

同世代の友人の中には、同じように子供を持たないと決めている人もいるし、出産後、子供との時間を過ごそうとキャリアを捨ててパートタイマーになった人もいる。「子育てとは何かを考えた時、自分以外のもう一人の人間に責任を持つということは自分にはできないと思った。いま仕事でたくさんの責任を背負っていて、時間も注いでいる。私は起業家を選んだ。自分で自分の人生を開拓している」――アンナの爽やかな笑顔と軽い口どりの背後に、固い決意を感じた。

会社は2年目で社員も増えた。オフィスで夕方まで仕事をした後は、イベントやセミナーに出かけることもあり、結局夜まで仕事をしていることがほとんどだ。実際、筆者がアンナと知り合うことができたのも、ベルリンで6月末に米Dellが開催した女性起業家イベント「Dell Women Entrepreneurs Network」に出席していたからだ。ちょうど、仕事が忙しくなるベルリンファッションウィークの直前で、アンナは手元のスマートフォンでスタッフやクライアントからの重要な連絡に対応しながらの参加だったが、世界中の女性起業家とネットワーキングし、会社を成長させるにはどうすればよいのかを考え、プレゼンの心得などのセミナーを楽しんでいた。

そんな忙しい日々を送るアンナの日課は、朝起きて必ずするというヨガだ。頭の中を空っぽにして、新しい1日を迎えるという。

ロールモデルを――政府の取り組みも多角化

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キアラ・サンタンジェロは、ドイツ連邦政府経済エネルギー省政務長官、ブリギッテ・ツィプリース氏の秘書をしている

受付を済ませて待つこと数分、モデルのような容姿の女性が迎えに来てくれた。場所はベルリン中心部にあるドイツ連邦政府経済エネルギー省。古い建物を増改築したため、階段を上ったり下りたり、廊下を何回か曲がってやっとオフィスに通された。待っていたのは、同省で政務長官を務めるブリギッテ・ツィプリース氏の秘書、キアラ・サンタンジェロ氏だ。

ツィプリース氏は1990年代後半から政治家として活躍しており、シュローダー政権時に内務省事務次官、その後の連邦法務大臣などの経験を持ち、女性の就労促進にも取り組んできた人物だ。彼の秘書を務めるキアラは「60~70年代のフェミニスト運動からだいぶ時間が経った。女性は変わったのか? 実際には、いまだに重要な決断は男性がしていることが多い。変化を見せなければならない。女性は人口の半分を占める。女性が働くことは大切だ」と話す。

そこで同省は、”Women Undertake”として学校での取り組みを開始した。ビジネスで成功した女性が学校に行き、学生を相手に成功体験を語るというものだ。ツィプリース氏自身も、ベルリンで活発になる起業トレンドを活用し、女性起業家や女性経営者を集めて1~2カ月に一度、”Founders Breakfast”として朝食会を開き、さまざまなトピックについて意見交換しているという。

「2014年、ドイツ企業の創業者の半分近くを女性が占めるに至った。このように、ビジネスとリーダーシップの全ての面で女性が躍進しているという点で、われわれの成果に喜んでいる。しかし、技術分野での女性起業家は10%程度で、まだまだ取り組む余地はある」と、キアラはツィプリース氏の意見を代弁してくれた。

男女の機会均等はドイツ政府の課題の1つとなっている。パートタイマーの2人に1人が週の労働時間を20時間以下に抑えているが、2014年のG20ブリスベンサミットで提出した「Employment Plan 2014」で、ドイツ政府は女性の労働時間の長時間化、保育施設の増設、管理職での女性の比率アップなどを取り組み事項に挙げている。