これまでは九州での成功例は、北海道にとってはよそでの出来事でしかなかった。ところが、現場の意識が変わってくると、疑問や質問をメールでやりとりすることで、成功のポイントを抽出し、自分の仕事に生かすことで成功体験の伝承が可能になってきた。

こうした情報は、かつてもデータとして本社に上がってきていた。大事なのはそれを続けるということ。経営トップ自ら率先して情報をチェックし、意見を述べることで、社員への浸透度を高めていくことができる。

そこで共有化できた情報を、どういう形で発信していくか――。例えば、新ジャンルで爆発的にヒットした「のどごし〈生〉」の場合、先行していたサッポロビールの商品の売れ方から、市場性はあると判断した。そこで、05年4月に発売するにあたっては定番商品にすることを狙った。そのため、注文が殺到したときに品切れを起こさない生産体制の構築が自然発生的になされた。これは文字どおり、「お客様本位」「品質本位」の考えに立った商品化だった。

私が採った原点回帰という社員の意識改革や、会社の風土改革というやり方は、ドラスチックな機構改革に比べれば即効性はない。仮に社員の意識改革ができたとしても、すぐにヒット商品につながるものでもない。

社長は最低3年か4年は務めなければならない。その在任中に「新キリン宣言」の考えが、日々の行動になって出てくれば、次にバトンタッチしても大丈夫だという気持ちはあった。幸い、「のどごし〈生〉」のヒットで、私の採ってきた戦略は間違っていなかったことが証明された。会社に活気が出て、元気な社員が増えてきているのは本当に心強い。

(岡村繁雄=構成 小林 靖=撮影)