注目されるのは個人番号そのものではなく、希望者に発行される顔写真付きの「個人番号カード」だ。住所、氏名、生年月日、性別が記載され、運転免許証と同様、信頼性の高いアナログ身分証明書になる。加えて内蔵のICチップに「公的個人認証サービス」に対応した「電子証明書」が記録される。行政のオンライン手続の本人認証に用いられる仕組みで、マイナンバー制度の開始に合わせて、広く民間に開放される。対応する読取端末にカードをかざせば「本人」だと行政のお墨付きが得られるもので、スマートフォンとの連携も想定され、簡単でより確実なオンラインでの本人認証が実現する。

民間企業が利用すれば、本人確認が容易でないネット空間での安全・安心を高められる可能性がある。ネットバンキングなどでの「なりすまし」防止をはじめ、ネットオークションなどの個人間取引では相互に実在の人物であることを確認できるようになり、クチコミサイトではサクラの書き込みを減らせるかもしれない。政府の有識者会議では、東京オリンピックのチケットを本人認証のうえで電子販売し、会場の安全性を高めるという案も出されるなど、アイデアは尽きない。

さらに民間分野でのメリットが期待される枠組みとして、「マイナポータル」への民間事業者の乗り入れや、個人番号カードのICチップの空き領域の民間利用も提案されている。将来の法改正に向けて、これから議論が本格化するだろう。

このようにマイナンバー制度は、新たな社会基盤として民間分野にとっても多様な可能性を秘めている。制度の実現に投じられた莫大なコストやリスクを上回るメリットを我々が実感できるかどうかは、今後の法改正の行方と民間の創意工夫にかかっているともいえそうだ。

伊藤 亜紀

片岡総合法律事務所弁護士。NHK報道記者を経て弁護士登録。電子マネー等の決済ビジネスやパーソナルデータ関連の法務を数多く手掛ける。