3分間のために自問自答を繰り返す

伝える力というのは、日本がグローバル化していくにあたって非常に重要なテーマになると思います。政治でもビジネスでも、英語を共通言語とするのが世界のルール。言葉に固執していると、日本人には大きなハンディキャップになってしまう。我々の土俵で戦うことができないわけですから。

イギリス大使館には、しばしば訪問。大使が大きな関心をよせているダイバーシティについて話すことも多い。

私がいつも考えるのは、日本人としてのグローバル社会での伝え方。たとえば、東日本大震災では非常事態でも順番を守る日本人の社会秩序が世界で称賛されましたよね。最近は日本食を「おいしい」と好む海外の人たちも増えています。つまり、国や地域は違っても、共感や感動に対する共通の感性はあるはずで、その感性に訴えるコミュニケーションを模索しています。

プレゼンの場であれば、言葉だけでなく、身なり、表情、ジェスチャー、声のトーンなどすべてが表現の手段であり、そこからメッセージを送ることもできます。日本人として、女性であれば女性という個性を生かして、どのように伝えていくのかを工夫することだってできるでしょう。

もうひとつは、魂を込めて真摯(しんし)に伝えることです。実はこれが最も重要だと思っています。ここ一番の大事なプレゼンであれ、提案であれ、考えて、考えて、自問自答の揚げ句に、自分が伝えるべきだと信じるものを、すべての手段を使って誠心誠意伝える。この「一生懸命感」は国を超え、文化を超え、迫力のような形で伝わると信じています。「言霊」という言葉があるように、言葉そのものではなくて、言葉というツールにどこまで魂を込められるかということなのでしょう。

私がずっと携わってきた「営業」という仕事を例にとると、お客さまと最初に会ったときの30分がとても重要になります。そこで話をして、「面白い話をしていたな」「もっと話を聞いてみたい」という印象を植え付けられれば、次のアポにつなげることができます。そのためには、事前に相手のバックグラウンドを調べたり、先方の部下に会社の動向を聞いたりと、多くの時間とエネルギーを費やす必要があります。

「本当にお会いしたかったんです!」というオーラみたいなものが醸しだされるぐらいに、真剣にその人と対峙することが大切なのです。

吉田晴乃
慶應義塾大学卒業。女性が少ないテクノロジー分野で第一線のセールスとして、20年以上の実績を持つ。カナダ、米国、英国のビジネス界で培ったグローバルな視点やワーキングマザーとしての経験が、日本での新しいロールモデルとして期待されている。

撮影=長友善行(aosora)