――実家での役割に対する期待により、「女性という性」について考えざるを得なかったのですね。

【坂井】そうですね。同時に、学校に通いながらも年々疑問に思うことが増えていきました。小学生のころは体も大きかったですし、体力もあって勉強もできて、強者側にいたんです。だけど、中学に入ったらそれではダメで、「明るくて見た目が可愛い子=人気者=強者」という図式になり、女の子はキレイじゃなければならない、という生きづらさを感じるようになりました。

派手な“ブス”・明子と、地味な“美人”・まなちゃん。人格が入れ替わってしまった2人はルームシェアを始める。それぞれの仕事、家族関係、恋愛はどうなっていくのか? 新作『鏡の前で会いましょう』では、美醜のほか、自立や母子依存などについても、きめ細かく描かれている。(『鏡の前で会いましょう』より。(C)坂井恵理/講談社)

――女である以上、一生ついて回る問題ですよね。

【坂井】でも、もし自分が男だったら、そんなことは気にもせず男社会を謳歌してしまっていたかもしれません。なんせ、主人公のヒヤマというキャラクターの「強者がゆえに弱者の目線に立てない」という性格は、私がもし優秀なイケメンだったらこうなっていたかもしれない、と思いながら作ったので。

『ヒヤマケンタロウの妊娠』では、主人公のほかにも、「ごめん!」と顔文字付きのメール1本で中絶を求める男性、妊娠した男子高校生、子供嫌いのアラサー女性などの登場人物を通じて、多様な妊娠観・子供観が描かれる。出産経験のある人、妊娠中の人、いずれ子供が欲しい人、子供は要らない人、考えたことすらない人……、どんな立場の人が読んでも思うところがきっとある、そんな作品だ。妊婦という「弱者」、「マイノリティー」をいたわれ、と一方的に主張しているわけでは決してない。「私は、今、自分が置かれている立場のことだけしか考えられていないのではないだろうか」、誰もがそう思い知らされる1冊である。

坂井恵理(さかい・えり)
埼玉県出身。漫画家。著者に、『ビューティフルピープル・パーフェクトワールド』(小学館刊)、『ヒヤマケンタロウの妊娠』(http://kc.kodansha.co.jp/product?isbn=9784063803747)『妊娠17ヵ月! 40代で母になる!』(講談社刊)など。独特の切り口で美醜やジェンダーを問う。時に共感し、時に心をえぐるようなストーリーに、多くの支持が集まる。2015年8月より、『BE・LOVE』(講談社刊)にて『鏡の前で会いましょう』の連載を開始。(『鏡の前で会いましょう』第1話がこちらから試し読みできます。→ http://goo.gl/uqaJoF

構成=朝井麻由美