耐える力ではなく、感謝できる気持ちを

こうした接し方、育成方針は、アデコの社員に対しても同じです。また、重要なポストにいる管理職や役員には特に、“修羅場体験”の必要性を伝えています。修羅場を経験していない人は、人の上に立てません。これは「苦しさに耐える力がつくから」、というわけではありません。周りの支えの重要性を実感するためです。人に助けてもらわないと解決できないことはとても多い。いかに自分1人でできることが少ないか、人からの助けが必要か。これを知らない限り、人の上に立ってはならないと思います。

久乗さんも、たった1カ月でしたが、さまざまな経営レベルの会議に同席し、新しい知識を学び、SNSなどの情報発信を行い、事業計画をまとめています。結構な修羅場ですね。既に、「○○さんに、こんなアドバイスをしていただいて助かりました」などの言葉が聞かれます。短い期間ですが、その中で周りの人の支えの大切さに気付けたらすばらしいですね。

──CEO for Monthに課された仕事の1つに、情報発信があります。なぜでしょうか?

経営者は、単にビジョンや経営方針を考えるだけでなく、発信し、他者に浸透させることが求められます。1度伝えただけで社員全員が理解し、すぐにその通りに動いてくれるものならば、誰にでもCEOができます。しかし「なぜAではなくBなのか」といった根拠や、その背景にある思いや意義などを何度も言葉にしていかなくてはなりません。そうでないと動いてもらえない。発信力が重要なのです。

経営幹部にはよく「伝え続けろ」「発信し続けろ」と言っています。私は間違いなく、アデコのビジョンについて誰よりも口にしている自信がありますが、それでもまだ足りてはいません。「もう聞いたよ」と言われても、なお発信し続けないと、伝わらないのです。

もちろん、発信すると責任が生じます。言ったからには、経営者自身も実践しなくてはなりませんから。しかしそうした責任を恐れていては、何も始まりません。「これを言ったら、周囲から何を言われるだろう? どうしよう」などというリーダーには、誰もついてきません。