人間として成長できた瞬間

この年になって振り返ってみると、叱られた経験ほど深く記憶に残っています。もちろん、褒められればもっと頑張ろうという気になりますが、自分が人間として成長できたと感じるのは、やっぱり叱られたときのことです。

高校を卒業して美容部員になったばかりのころです。売り場にはお客さまが次から次へとお見えになるので、前の方が使った化粧品を乱雑に置いたまま、次の方をお迎えすることがありました。そうすると当時の先輩から、「お客さまをお迎えするときは、どんなに忙しくても手早く、あるいは最初に置くときから次のお客さまをお迎えしやすいよう心がけて、置くべきでしょう」とぴしっと叱られたことが今でも心に残っています。

また、会社の上司ではなく、お得意さまから叱られたことも深く残っています。普段はフランクな話し言葉でもウエルカムな方だったので、ついいつもの調子でお話ししていたら「あなた、私がお得意さまだってことわかっているの」ってぴしゃり。そのときに、いくら長年のおつき合いのある方でも、お得意先さまと我々メーカーは「礼節」という一線を常に引いておかないといけないと肝に銘じました。結局それらは、すべて失敗して叱られたことから学んだことです。叱られないと気づけなかったことがいっぱいあります。だから“叱る”と“教える”というのは表裏一体なのですね。

さらに大事なのは、叱られた人が今度は修正して、きちんと仕事で実践したときに、褒めてあげること。自分の言葉がその人の中に生きたということですから、大きな喜びでもあります。

人を育てることこそが上司の役目。上司になると人を叱らないといけない、そんないやな役目なら上司になんかなりたくない、そう思う人もいるかもしれません。でもこれは、やりがいなのです。叱ることは人を育てていく段階で、とても大事なものだということを自分の中で受け入れると、部下はもちろん、ご自身も成長できるのではないでしょうか。

■関根さんが教える3つの知恵
1. 他人から見てもわかるような、叱る基準をつくっておく
2. 叱る前に、相手のことを考えながらシミュレーションする
3. 皆に伝えたいことはあえて人前で叱ることもある

■関根さんのキャリア年表
1953年:山形県に生まれる
1972年:資生堂にBC(ビューティーコンサルタント)として入社
1991年:資生堂の子会社、ディシラに異動
2003年:ディシラ東日本ブロック営業本部長
2004年:資生堂販売宇都宮支社長
2006年:資生堂販売近畿支社大阪支店長
2008年:ディシラ営業推進本部長
2009年:国際事業部国際マーケティング部 美容企画推進室長
2012年:執行役員美容統括部長に就任
2014年:BCから初の執行役員常務に就任

撮影=ヒダキトモコ