A NEW NORMAL LIFEへ

「復職当時は目標像が高すぎました」と桜井さんは言います。迷惑をかけたと焦るあまり、バリバリ働いていた20代の自分に戻そうとしていたと。でも、少し目標を下げれば「できない」辛さが「できる」喜びと自信に変わります。

「目標を下げる、ではないんですよね。変える、新しく創造する、かな」

米国の患者会にはすてきな言葉があります。NEW NORMAL LIFE――新しい日常生活を見つけよう、新しいスタイルを決めよう。

自分が今、できることの見通しを立て、周囲とコミュニケーションをとりながらNEW NORMAL LIFEを創造する――実は働く女性のほとんどが何度か経験することです。転勤、昇進、結婚、出産・子育て、親の介護といったライフイベントごとに。

病気もライフイベントの一つ。そう考えてみると、次第に自分らしい就労の形が見えてきます。桜井さんにも、自分自身の奥底にあった「やりたいこと」がはっきり見えてきたといいます。それは、人と人とをつなぐこと。

「がんという病気が、人のぬくもりや弱さの中の強さを知ると同時に、自分にとっての仕事の意味や本質を見つめさせてくれた、本当にそう思います」

桜井さんは今、がん患者の就労を支援する会社の経営者。がんを通じて得た豊かな経験を、大切な資源として活かせる社会づくりを目指しています。

桜井なおみ(さくらい・なおみ)
1967年生まれ。設計事務所のチーフデザイナーをしていた37歳のときに乳がんが見つかり、治療のため約8カ月間休職。職場復帰後、治療と仕事の両立が困難となり、2年後に退職。その苦い体験から、がん患者の就労支援事業 CSRプロジェクトを開始。社会貢献型のキャンサー・ソリューションズ(株)で事業開始。家族は夫と犬とゼニガメ。