だからなのだろう、先日、とある食品会社が販売する飲料のネット限定CMが、放映終了後9カ月も経過しているにもかかわらず、ネットで突然炎上した。このCMが今年(2015年)9月にアジアの代表的な広告祭であるスパイクスアジアで入賞したため、それを見た外国人ライターが「気持ちが悪い。理解に苦しむ」とツイートしたのがきっかけだ。このCMは3月のアドフェスト(アジア太平洋国際広告祭)でも入賞しており、CM技術の完成度や世界観には評価の声が高い。

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炎上のきっかけは、外国人ライターのツイートだった

このCMに描かれているのは、牛が擬人化された高校生たちの「卒牛式」だ。高校生たちはみな、鼻に鼻輪を付けている。あるものは動物園に、あるものは闘牛場へ、または食肉会社へと、人生の明暗をくっきりと分ける「進路」の宣告を校長先生から順番に受けていく。主人公たる女子高生・ウシ子は、これまで「あなたは“特別なもの”を持っているのだから、“胸を張って”」と母親にも応援され、華奢(きゃしゃ)な体に“栄養”をつけ、“大きな胸を揺らして”走り、夢の進路へ向けて努力を重ねてきた。とうとう卒業式の壇上で、校長先生から進路として念願の飲料ブランドを告げられ、「濃い牛乳を出し続けるんだよ」との言葉に、感激で打ち震えるのだ。そこに差し込まれる画面は「“特濃牛乳”100%使用のボトルコーヒー新発売」という、他愛のないショートムービーである。

このCMに対してネットでは、「悪趣味極まる」「牛の『進路』とはブラックだ」「女性を侮辱している」「性的な表現が気持ち悪い」「モヤモヤする」とさまざまな声が上がったが、なぜこのCMが欧米(というかアングロサクソン)の感覚ではアウトなのか、日本人ですぐに理解できる人は少ないようだ。

まずは女性を牛で擬人化するというのが、非常に、猛烈にまずい。即刻アウトだ。牛は「胸ばかり大きくて低脳な女」を示す隠語でもあり、それを胸の大きな可愛い女の子に擬人化したなんて、丸ごと女性への侮辱なのである。そして女の子の胸の揺れを強調する表現は、一般的な映像やゲームを制作しようとする現場では、性的な表現の代表として禁忌に近い。日本ではほとんど問題にならないが、欧米でこれをやったら、作品の年齢制限を引き上げてしまう。

極めつきは最後に校長先生が言う「濃い牛乳を出し続けるんだよ」。いかに擬人化した設定とは言え、もはや成人向けマンガ並みの下品さである。そんな言葉を、本来権威ある、しかも年配の大人が、若く社会経験の乏しい女子学生に対して微笑みながら発するなんて、社会的立場を利用した極めてタチの悪いセクハラと受け取られても言い訳できないのだ。