町を俯瞰で眺めると多様な生活が見えてくる

反対意見が多い中、臆することなく「保育園開園を見守りたい」と言った女性に、後日、会うことができた。菊川さん(仮名)。目黒区にもう何十年も住んでいて、民生委員を長く務めた経験から、この町のことをよく知っているのだと言う。

さらに話を聞くと、菊川さんと地域の子育てとの関わりは、今回に始まったわけではないらしい。菊川さんが民生委員をやっていた2000年前後、専業主婦向けの簡易な乳幼児一時預かりサービスを発案し、託児施設を運営していたのだ。働くお母さんと違い、専業主婦のお母さんは社会との接点が少なく、孤独なのではと気になったからだ。月に1度だけ、10時から15時まで赤ちゃんを預かり、お母さんは育児から解放されて1人の時間を楽しめる。そんな活動を始めたら、口コミで情報が伝わり何十人もの親子が集まるようになった。その取り組みは、菊川さんが民生委員を辞めた後も、お母さん同士で助け合いながら続いているそうだ。

菊川さんはそんな風に、地域コミュニティを思いやる人なのだろう。保育園開園とその反対運動のことも気にかけていたという。

「私もあの工場跡地である建物が保育園に最適とは思えませんよ。もっと広々した場所はないかとも思います。だからこそ、安定して保育園を運営していくために、周りの助けが必要なのではないかしら」と言う。「年を取ると静かに暮らしたい……そういう気持ちは私にもあります。でも今この近辺では、大きな家が取り壊されて、その敷地は4つや5つに分割され小さな家ができています。そこに若いご夫婦が移り住むようになっているの。そういう、これから子育てをする若い世代の人達には、保育園が必要なんですよね」。菊川さんは、そんな風に町に目を配り、時代の変化を敏感に受けとめている。長らく住んだ町に若い人が増えることをまず前向きにとらえているのだ。