私の親しい友人のお嬢さんのエピソードです。彼女は先の春に、大学受験に失敗しました。志望校に落ちてしょんぼりしていたら、担任に「これまでの勉強法が悪かったんだね」と声をかけられ、「先生の発言が後ろ向きで嫌になった」と言うのです。

そして翌日、近所の文具店の若いご主人から「今日は泣いていてもいいけど、来年に向けて明日から頑張ればいいじゃない」と言われたそうです。彼女は、過去の悪いところを指摘する先生より、前向きな文具店の店主の言葉で気持ちの切り替えができ、1年後の再挑戦に向け元気をもらった、と言います。

原因究明よりも解決策に頭を使え、というアドラーの言葉はそういうことです。悪かったことの原因究明は、思い出す度に私たちの心から勇気を奪います。

あれが悪かった、これが悪かったと自分や他人を責めても、事態は何も変わりません。顔つきも暗くなってしまいます。それよりも、次に何をしたら成功するかを考えた方が得策。やる気が出て、表情も前向きに輝きます。

過去に縛られると現在にエネルギーを集中できません。当然未来のことも考えられません。あなたの意識が過去にある限り、エネルギーは現在と未来に向かわないからです。アドラーはこれらを違う言葉でも表しました。

人は過去に縛られているわけではない。
あなたの描く未来があなたを規定しているのだ。
過去の原因は「解説」にはなっても「解決」にはならないだろう。
佐藤綾子 パフォーマンス心理学 博士
常に女性の生き方を照らし、希望と悩みを共に分かち合って走る日本カウンセリング学会認定スーパーバイザーカウンセラー。日本大学芸術学部教授。「自分を伝える自己表現」をテーマにした単行本は180冊以上。新刊『30日間で生まれ変わる! アドラー流心のダイエット』(集英社刊)は9月4日発売。