認識をそろえれば行動が早くなる

Aさんは今回のような手戻りややり直しが再発しないように、Bさんと作業内容についての認識をすり合わせる必要があることに気が付きました。そして、Bさんと2人で話す機会を設定しました。

A「Bさん、ちょっといいかな。さっきのことなんだけど、どうして修正のやり取りが何度も発生してしまったのか、少し一緒に考えてみたいんです」
B「はい、わかりました。私も、何が悪かったのか知りたいです」
A「うん、それじゃあ早速教えてほしいんだけど、私からの指示ってどういうふうに理解していた?」
B「えっと、〇〇〇と×××の表記を統一してくれということだと思っていました」
A「そうだね。私が“なぜ”その指示をしていたのかについては、どうかな? どういう理由があると思ってた?」
B「……特に、意識してなかったです」
A「じゃあ少し説明しよう。そのお願いをしたのはね、■■■■■■という理由からなんだ」
B「なるほど、それじゃあ△△△とかほかの商品も同じように表記をそろえなきゃいけないんですね」
A「そうなんだよ。それで、これからなんだけど、“どうしていったら”もっと作業がスムーズになるかな?」
B「そうですね、例えば……」

いかがでしたか。2人の間にはどのような認識のギャップがあったのでしょうか? そして、それは解決されそうでしょうか? Aさんは、Bさんが自分の指示をどう受け止めていたのか、そしてその指示にはどのような理由があると思っていたのかを聞き、そして今後どうしていくべきかについても尋ねています。以前のままなら、AさんとBさんはキャッチボールのように資料の提出と差し戻しを繰り返していたかもしれません。ですが、Aさんの指示の意図がBさんに共有され、そしてAさんとBさんの2人がより良い作業の進め方について検討することができれば、次回以降はそうした手間はだいぶ減るはずです。

もう1つ注目してもらいたいのは、Aさんの問いかけ方や場のセッティングの仕方です。AさんはBさんを責めるのではなく、2人で問題を解決しようというスタンスで話し合いを始めています。もしもっと緊迫した形だったら、Bさんは素直に答えていないかもしれません。

このように、たとえちょっとした作業や業務であったとしても、互いの認識がすれ違っていてはなかなかうまく前に進みません。そのズレを修正するためにまず必要なのは、それぞれがどのように問題を見ているかを共有することです。そして、そのために因果関係や解決策について問うことが重要になります。

次回は、問題の認識を共有するための別のアプローチとして、ラテラルシンキングの視点から問題の前提を問うことについてご紹介いたします。

清宮 普美代(せいみや・ふみよ)

株式会社ラーニングデザインセンター代表取締役、日本アクションラーニング協会代表、OD Network Japan 理事、WIAL公認マスターALコーチ、青山学院大学経営学部 客員教授。
東京女子大学文理学部心理学科卒。毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)にて事業企画や人事調査などに責任者として携わった後、渡米。ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士取得。マーコード教授の指導のもと、アクションラーニングの調査・研究を重ねる。帰国後、2003年株式会社ラーニングデザインセンターを設立。著書に、『質問会議』(PHP研究所)、『「チーム脳」のつくり方』(WAVE出版)、『対話流』(三省堂)、『20代で身につけたい質問力』(中経出版)。