迫られる構造改革

それでは東芝の今後はどうなるのでしょうか。

今月中に「特設注意市場銘柄」に指定される見通しの東芝は、1年内に内部管理体制を改善していかなければ上場廃止となるおそれがあります。そのため、内部統制の改善を急ピッチで進めていかなければなりません。それとともに投資家からは業績の建て直しも求められています。

連載第6回「東芝、巨大複合企業を支える意外な事業」(http://woman.president.jp/articles/-/520)で書きましたが、近年の東芝を利益面で支えているのは半導体等を手がける電子デバイス事業であり、その一方で家電を取り扱うライフスタイル部門では損失の垂れ流しが起きています。

2015年3月期においても半導体等を手がける電子デバイス事業が突出した利益を計上しました。グループ全体の営業利益が1704億円のなか、電子デバイス部門で計上された営業利益は2166億円。ライフスタイル部門の営業損失1097億円を完全にカバーし、かつ全体に大幅な利益をもたらしました。

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事業別利益及び利益率(グラフは編集部にて作図)。連載第6回「東芝、巨大複合企業を支える意外な事業」掲載のグラフと比べると、2期連続で同じ傾向が続いていることがわかる。

東芝は巨大な複合企業ですが、利益面では電子デバイス部門に依存していることがグラフからも明らかです。ただ、電子デバイスは、需給の変動が著しく、海外の同業他社との競争も厳しいです。また景気変動や為替変動により業績が大きく変わりますので、安定はしません。今後は電子デバイスに次ぐ花形部門をいち早く育て、不採算のライフスタイル部門については構造改革を進めていくこととなるでしょう。

会社の規模を大きくしていくうえでは、既存事業に止まらずに様々な分野に進出することがよくあります。ただ全ての事業がうまくいくことは稀有なことで、事業数が多ければ多いほど不採算部門も増えてきます。そうなったときには集中と選択が求められます。収益性を改善するうえでは、それまで広げてきた事業を見直し、必要に応じて事業構造改革を行うことになります。それが複合企業の宿命なのです。東芝が問題点を克服できるか、まさに今が正念場です。

秦美佐子(はた・みさこ)
公認会計士
早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業等、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。