昇進意欲と時間的制約による垣根

清水さんは、女性管理職や女性経営者から、女性部下の育成に悩む声をよく聞くといいます。そこで例に挙げるのが昇進意欲の有無と時間的制約の有無の分布状況を知るためのM/Tマトリクス(Motivation for promotion/Time constraint Matrix)です。「M/Tマトリクスは、横軸に昇進に対する意欲の度合いの高低を、縦軸には家事労働や育児などの時間的な制約条件の有無をとった表ですが、働き続けることの難易度や管理職になるための阻害要因は、その人がどのセグメントに属しているかによって異なってきます。女性管理職や女性経営者は、昇進意欲が高く、マトリクスで言うと左側の象限にいて、苦労しながら頑張ってきた人が多い。一方、今の女性は、右側の象限の人も多いので、自分と違う価値観を持った人たちにどう接していいのか分からないのかも知れませんね」と説明します。

昇進に対する意欲が高い人のうち、時間的な制約がない人は左上の「高(無)」、時間的な制約がある人は左下の「高(有)」、また時間的な制約はないが意欲が低い人は右上の「低(無)」、時間的な制約があり意欲も低い人は右下の「低(無)」のセグメントに属する。

管理職や経営者から寄せられる声に対し、清水さんは次のようにアドバイスをします。「まずは女性部下に、正しい知識や未来予測を持ってもらうこと。書籍でも、女性活躍推進とは何かについて、マクロ経済的な視点で述べています。人口減少や国の財政状況などの未来予測を知ると、そもそも女性が『長く活躍しない、働かない』という選択をすることが、現実的でないことに気付くはず。それだけでも、スイッチが入る人は多いと思います」

また、今後は女性を分けていた、“働き方の垣根”が取り払われることを知ってほしいと話します。「マトリクスの左右にも上下にも、意欲ややる気次第で柔軟に動くことができるようになりつつある。自分で選び取ることができるようになっているんです」。しかし同時にそれは、女性にとって厳しいことでもあります。「女性活躍推進は、女性に“優しい”制度を充実させるだけのものではありません。女性も、管理職になるために必要な経験や機会が与えられるようになり、鍛えられる。男性同様に“厳しさ”も課せられるようになるのです」