サン・ラザロ島の修道院を訪ねて~アルメニア

アルメニアの正式名称は、アルメニア共和国。西にトルコ、東にアゼルバイジャン、南にイラン、北をグルジアに囲まれた、国土面積が日本の約13分の1という小さな国です。

主な民族はアルメニア系で、人口約300万人が公用語のアルメニア語を話し、西暦301年に世界で初めて、国家としても民族としても公式にキリスト教を受容しました(東方諸教会系のアルメニア教会)。

歴史の変遷を経て、1990年代に旧ソ連から独立しましたが、そのルーツは紀元前までさかのぼることができます。今回、アルメニア館の会場となったサン・ラザロ島は、ヴェネツィア共和国時代の検疫所だった島をアルメニア修道士が譲り受け、18世紀初頭から今日までアルメニアの修道院として機能しています。

写真上/建物の中庭に面した白い回廊には、写真を中心に作品が静かに展示されている。写真下/Aivazian Haig氏の「I am sick, but I am alive」。重厚な修道院の中に設置されたの彫刻作品。まるでもともとある調度品のように空間に馴染んでいる。Photo by Sara Sagui
Courtesy: la Biennale di Venezia

こうした予備知識をほとんど持たずに、ビエンナーレ授賞式でアルメニアの国別パビリオン部門金獅子賞受賞を知った直後、この島を訪れました。島はヴェネツィア本島から1日数便しかない船で20分ほどの距離ですが、雑踏と喧噪から解き放たれた別世界です。上陸すると小鳥のさえずりの中、緑鮮やかな庭園が広がり、その先には低層でレンガ造りの趣ある建物が佇み、それらが穏やかに調和しています。

現役の修道院ということもあり、中に入るとひんやりした回廊が中庭に向けて開かれていて、驚くほど静謐な美しさに満ちた場所でした。

ここは修道院であると同時に、アルメニアに関連した出版活動や、文化的な文物や図書等を収集、展示をしている文化センターとしての機能も有しています。歴史的な絵画、調度品、図書、考古学的な資料やミイラとともに、現代作家の写真や絵画、彫刻やインスタレーション、ビデオ作品が随所に展示されていて、一見すると本展の作品なのかどうか非常に曖昧で、空間全体が醸し出すキュレーションの妙も味わえます。

テーマにある「Diaspora」(ディアスポラ)とは、「分散」や「離散」というアルメニアにとって縁の深い言葉です。古くから文化や交易上の重要なルートであったため、ローマ帝国、モンゴル帝国、オスマン帝国や、旧ソ連など近隣諸国との紛争がこの国を翻弄してきました。そのため、多くのアルメニア人が生き延びるためにやむを得ず自国を離れ、現在、アルメニアの人口の約2倍にあたる600万人以上が国外に住んでいるといわれています。