利益率は為替変動に左右される

同じ車を売っているのに、なぜ日本の利益率は高いのでしょうか。

前述の【所在地別情報】で、日本の売上高の中身を見ると、「所在地間の内部売上高」が6兆円で全体の4割以上を占めていることが分かります。これは北米や欧州、アジアといった他の地域にあるグループ企業に対して売り上げた金額です。トヨタは日本の工場で車を作り、海外の会社に輸出してそこで販売するケースが多いので、このような結果となっています。

なお、「所在地間の内部売上高」は企業グループ全体で見た場合、グループ間の内部取引となるため、連結ベースでは消去されます。また、内部売上はすなわち他の地域の内部仕入となるため、内部仕入が含まれている「営業費用」も同時に消去されます。

前述の「所在地別情報」のうち、「所在地間の内部売上高」に注目。企業グループ内の取引の流れや規模についても見えてくる。

このように、一見多くの利益を獲得している日本ですが、所在地間の内部売上が多額に上ることから、実はその中に海外への輸出で得た利益も多く含まれていることが分かります。そして、日本の利益率が良いのには為替相場が関係しています。円安になれば輸出業には有利になります。実は2008年3月期から2012年3月期の日本においては、利益どころか、4期連続で営業赤字を出しています。その時期はちょうど円高と重なっていました。

為替の推移とトヨタ自動車の売上高については連載第2回目の「今さら人に聞けない! 円安になると日経平均株価が上がる理由」(http://woman.president.jp/articles/-/380)をご参照ください。

利益率を計算することも重要ですが、なぜそのような結果となったのかについて、さらに一歩突っ込んで考えてみると実態がより見えてきます。

経営も投資も一筋縄にはいきません。利益率の低い事業から高い事業に切り替えることでうまくいくこともあれば、一時的に利益率が高いからと言ってそればかりをやっては後々損することもあります。また、一時的に利益率が低いからと言ってむやみに撤退しない方が良いときもあります。目先の利益に振り回されずに、業績背景を踏まえた上でしっかりとした経営の軸を定めることが大切なのです。そのための情報を有価証券報告書は提供してくれます。

次回はトヨタ自動車の財政状態についても分析していきたいと思います。

秦美佐子(はた・みさこ)
公認会計士
早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業等、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。