「女性管理職を増やすこと」が目的ではない

企業のみなさんが、新法で一番気にされているのは、現状の女性活躍状況を示す数値の公表のようです。公表するデータ項目については、今後省令で定められる候補の中から企業が選んで公表することになります。ワーク・ライフ・バランスや両立支援の取り組みを熱心に行ってきた企業であっても、これら4項目の数値が良いとは限りませんし、これまで公表してこなかった企業も多い状況です。特に最近は、政府の成長戦略に数値目標が掲げられたりと、女性管理職比率に注目が集まっていますが、日本企業におけるその比率はどこもまだかなり低い水準です。

しかし、新法の狙いは女性管理職を増やすことだけではありません。これは数多くある課題の一つに過ぎません。前述の「女性活躍推進の構造図」にあるさまざまな指標を総合的に押し上げることによって、結果的に女性管理職比率も上がってくると考えられますが、短期的に、女性管理職比率だけを上げようとすることには弊害もあります。

近年、多くの企業で、妊娠や出産した女性が産休や育休を経て職場に復帰するようになってきており、企業としては、女性の活躍に関して「これ以上、一体何をやる必要があるのか?」という声も少なくありません。しかし、妊娠・出産時に働き続けられる両立支援だけで十分なわけではありません。戻ってきた職場で、女性が活躍できる環境づくりが必要です。新法の一番重要のメッセージはここにあります。「両立」の先に、「活躍」支援として、まだ企業に取り組んでほしい課題がある、ということです。

これまでの日本企業の正社員にとって、フルタイムというのは8時間勤務ではありません。与えられた仕事が終わるまで、時間制限なく働くことを意味しています。また、そのように働くことが、管理職になるなどキャリア形成をはかるための前提になっている企業が、いまだ少なくありません。だからと言って、「短時間勤務だとキャリア形成ができないから、早くフルタイムに戻って長時間働き、管理職になりなさい」というのは、多様な働き方を受け入れたことにはなりませんし、本当の意味でダイバーシティマネジメントとは呼べません。限られた時間・働き方の中でしっかりと活躍してもらうにはどうしたらいいか、キャリア形成としてどのような道筋・選択肢が設けられるのか、企業は本気で考えるべき時が来ているのです。

矢島洋子(やじま・ようこ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 経済・社会政策部 主席研究員 兼 女性活躍推進・ダイバーシティマネジメント戦略室 室長。中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。2004年~2007年内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官。少子高齢化対策、男女共同参画の視点から、ワーク・ライフ・バランスや女性活躍関連の調査・研究・コンサルティングに取り組んでいる。著作に『国際比較の視点から日本のワーク・ライフ・バランスを考える』(ミネルヴァ書房/共著)、『介護離職から社員を守る』(労働調査会/共著)等。

構成=大井明子