創作の孤独と家族の存在

Q 最後に、働く女性としてのご自身を感じる時はありますか?

【塩田】自分の中に2人の塩田千春が存在します。作家としての自分、そして母としての自分です。この2人は決して交わることがありません。自然にそうなっていますね。

塩田千春氏。精力的に創作するアーティストであると同時に、一児の母でもある。
Portrait, Photo by Sunhi Mang

作家である私が作品をつくるエネルギーは、誰にもとめられません。それは、決して枯れることもありません。作品は命より大切です。

しかし、この仕事はとても孤独で厳しいものです。正直、作家活動だけではつらすぎる人生です。結婚し、出産し、仕事も続けていますが、作品だけで生活することはとても難しく、家庭という基盤が人生においても仕事においても大切だと思っています。

私には娘がいて、彼女を出産したときは産後1週間で仕事に復帰しました。その後もベビーシッターや家族のサポートがあり、さまざまな国で同時並行しながら作品を制作し発表し続けてきました。

それでも、仕事から家に帰って娘ととりとめのない話をする時間は、ほっと心が安らぎます。娘は小さいときから私が働いている姿をみているので、彼女にとってはこの生活が普通です。

ここ3週間、家を空けていますが、娘の「ママ、おかえり!」という一言が、私にとって何より一番うれしいですね。

※2015年夏、塩田さんの作品を東京でも観ることができます。新たな境地へと挑み続ける塩田さんにご期待下さい。
※次回の第56回ヴェネツィア・ビエンナーレ【3】は7月17日更新予定です。
 

塩田千春
1972年、大阪府生まれ。ベルリン在住。
生と死という人間の根源的な問題に向き合い、「生きることとは何か」、「存在とは何か」を探求しつつ大規模なインスタレーションを中心に、立体、写真、映像など多様な手法を用いた作品を制作。
神奈川県民ホールギャラリーの個展「沈黙から」(2007)で芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
主な個展にスミソニアン博物館アーサーM.サックラーギャラリー(ワシントンD.C./2014)、マットレス・ファクトリー(ピッツバーグ/2013)、高知県立美術館(2013)、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川/2012)、カーサ・アジア(バルセロナ/2012)、国立国際美術館(大阪/2008)など。 また、キエフ国際現代美術ビエンナーレ、瀬戸内国際芸術祭、あいちトリエンナーレ、モスクワビエンナーレ、セビリアビエンナーレ、光州ビエンナーレ、横浜トリエンナーレほか国際展にも多数参加。

【塩田千春・東京での展覧会情報】
http://www.kenjitaki.com/pages/intro1_j.html

【ヴェネツィア・ビエンナーレ】
http://www.labiennale.org/en/calendar/art.html?back=true