ボタンの掛け違いから、保育園開設が頓挫するまで

今度は目黒区役所を訪ね、保育計画課の担当課長に取材した。アポを取る時、電話で“忙しい”を連発し、「30分だけなら」と約束したのだが、それも逃げているからなのかといぶかった。きっといかにも役人っぽい、冷たい感じの人物なのだろうと想像して会いに行った。

工場として使われていた武骨な建物だが、明るい保育園に生まれ変わる日を静かに待っている。

出てきたのは、真面目そうな困り顔の年配の男性だった。質問すると嫌がりもせず丁寧に答えてくれた。これまたイメージが違う。

目黒区では認可保育園の設立に2通りのやり方があるそうだ。1つは目黒区自身が物件を見つけて運営する事業者を募る場合。この場合は区が主体的に動き、地元への説明も区が行う。

もう1つが今回のように物件から事業者に探してもらう場合で、これまでは駅そばのビルなどの物件ばかりだった。だが今回初めて住宅地で事業者主体のやり方で決まった。そこで、ブロッサム社が説明をしているものと思い込んだ。一方、ブロッサム側は決定を受けるまで動けないと考えていた。ここに行き違いがあったのだとわかった。

角野氏の憤懣をどう思うか聞くと、寝耳に水の状態になってしまったのは本当によくなかった。反省している。保育園の開設は切望されている一方、地元住民の気持ちも大事なのでなんとか理解してもらわねば、と言う。

それぞれの話を聞いて、私はわからなくなってしまった。すっかりこじれてしまったが、誰が悪いわけでもないと思える。

担当課長の住民への説明不足は否めないが、法的に間違っているわけではない。慣例やルールができていないことが問題なのかもしれない。いま都内で保育園が急増している証だろう。

行き違い、説明不足、ルールの不備。仕方ないとは言え、それらが理由でせっかく決まった保育園の開園が頓挫してしまうのだろうか? 次回、この続きを書こうと思う。

境治(さかい・おさむ)
コピーライター/メディアコンサルタント
1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボッ ト、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランス。ブログ「クリエイティブビジネス論」でメディア論を展開し、メディアコンサル タントとしても活躍中。最近は育児と社会についても書いている。著書にハフィントンポストへの転載が発端となり綴った『赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない。(http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4990811607/presidentonline-22/)』(三輪舎刊)がある。