セグメント情報からわかる売上の変動理由

円高のときはドルの買い時ということで、海外からモノを仕入れてくる輸入業に有利に働きます。仕入れ値が安いためその分利益を出しやすくなるからです。一方、円安が進めばドルの売り時となるため、海外でモノを売る輸出業に有利です。商品を売って得られたドルでより多くの円に換えられるからです。その結果、円ベースでの売上と利益がともに上昇します。

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売上を国内売上と海外売上とに分けて、それぞれの傾向に注目。円安になった2013年以降は海外売上が好調となっている。

ここで、2005年3月期から2015年3月期までのトヨタ自動車の売上高推移をみますと、少ないときで18兆円、多いときで27兆円の売上を計上しており、その差はなんと9兆円もあります。これだけ大きく増減しているのは、海外売上が原因です。海外売上高は有価証券報告書のセグメント情報で確認することができますが、少ないときで12兆円、多いときで21兆円と差が9兆円です。国内売上はさほど変わらないのですが、全体売上の大半を占める海外売上は変動が著しく、それがそのままの全体売上の増減につながっているのです。

そして、海外売上の増減は為替と深く関係しており、海外売上の低迷期は円高期と重なり、海外売上が回復した頃には円安も進んでいます。
日本は輸出国であり、トヨタをはじめ、ホンダやソニーといった日本を代表する大企業の多くは海外売上が大半です。円安が進めばこれらの企業が潤うため、その株価が上がり、結果として日経平均株価も上がるのです。

以上が、円安になると日経平均株価が上がる理由です。次回はトヨタ自動車の利益についても分析していきたいと思います。

秦美佐子(はた・みさこ)
公認会計士
早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業等、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。