エルメスは何屋かと聞く人はいない

応接室で、18年前に29歳という若さで同社を創業した、齋藤明彦社長に出迎えられた。会社のブランドイメージにぴったりの、紳士的な雰囲気の方である。雑談の中で「水道がきてないそうですね」と尋ねると、意外な答えが返ってきた。「食品加工は、水がいいことが一番ですから」。

同社が食品加工に使用する水は、すべて井戸から汲み上げる、健康によい弱アルカリ性の伏流水らしい。工場の所在地はもともとブドウ畑で、水にこだわってこの地を選んだとのことだ。

<strong>「商品ではなく、「企業」を売るんです」</strong><br>
階下にある工場でジャム作りが始まると、齋藤社長が慣れた様子で案内してくれた。

「商品ではなく、「企業」を売るんです」 階下にある工場でジャム作りが始まると、齋藤社長が慣れた様子で案内してくれた。

本社の1階部分にある工場で、ジャムの製造が始まるというので見学させてもらうことになった。白衣を着てエアシャワーを浴び、靴底まで消毒してから工場へ入る。工場に入ってすぐに、驚きの光景を目にした。これほど大きくて赤いイチゴは見たことがない。

社員が手でヘタを取り選別しているイチゴが、「上等」なのである。デパートなどで売られているイチゴよりも、大きくて赤くておいしそうだ。「1つどうぞ」と勧められた。これまで食べたイチゴの中で一番おいしいかもしれない。「生食用の一番よいものを、加工して更においしくするんです」と、齋藤社長。

ジャムを煮る釜は黄金色の銅製。これにガス火で直接加熱して、大きなしゃもじでかき混ぜながら煮るとのことだ。

「手間はかかりますが、銅釜はイチゴの赤い色が一番きれいに出るし、直火で炊いたほうがおいしいんです」

工場を見学して、納得がいった。ここまで手間ひまかけて念入りに作ったものなのだから、おいしくないわけがない。しかし、考えれば考えるほど不思議な会社である。食品加工を手がける会社は、世の中にごまんとあるはずだ。この分野において、なぜセゾンファクトリーはこのような「独自路線」を歩むことができたのだろうか。