例えば、ワイヤのコネクターを抜くにはコツがいる。しかし、同期の男性整備士が楽々とコネクターを処理しているのを見て、「私の腕力が足りないんじゃないか」と力任せに扱って壊してしまったことがあった。

「自分だけ上手にできないと、そんなふうに勘違いしてしまうことも多くて。教官に『力んではダメだ。練習をしてコツをつかめば力は必要ない』と教えられ、練習に励んだことも1度や2度ではありません」

油まみれになりながらみんなで整備した機体がドックから出ていくのを見送るときは、「感無量」。

あるいは、こんなこともあった。整備士の職場は今も昔も職人気質で、怒鳴り声が飛ぶことも多い。厳しく怒られ、ふがいなさに思わず涙を見せてしまう瞬間もあった。すると上司は言うのだった。

「泣くな! 泣いたら女だからと思われるし、『あいつは泣くから』と何も言ってもらえなくなる。それは君にとってマイナスにしかならない」

以来、彼女は仕事中に人前で涙を見せることは一切なくなったという。

「ありがたい言葉だったなと思います。振り返れば、当時は女性整備士が少なかった中で、女であることを意識する必要のない人間に育ててやろう、という先輩たちの気風をすごく感じました。そのフォローのおかげで努力することができたんだな、って」