“人”から“目的”へ視点を移す

NGOでの給料は、それまでの4分の1くらいになりました。不安はありましたが、自分で退路を断ってしまったので、走るしかありませんでした。

実は、「会計事務所に入ったりせず、最初から国連職員になるために頑張ればよかったのではないか」と後悔したことがあります。でも国連の面接で、面接官が私の経歴を見て「会計士の仕事をしていたなら、国連でも会計の仕事ができるわね」と言ったのです。遠回りをしたと思っていたけれど、国連への扉を叩いたときには、これまでの経験すべてが活きた。実は近道になっていたのです。

会計事務所でも国連でも、いつだって仕事は大変です。

国連世界食糧計画(WFP)に入り、ラオスの事務所に赴任したときは、特にその思いを強くしました。当時、20代後半でしたが、先輩職員をマネージャーとしてまとめることになりました。「私のことが嫌いなのでは?」「若い私を一人前に見てくれないのでは?」と不安な気持ちでいっぱい。なかなか信頼を得ることができませんでした。

でもあるとき、こうした「この人」対「私」という“個人と個人の関係”ではなく、同じプロジェクトの成功を目指すという“共通の目的”に視点を移すようにしました。すると、少しずつ信頼を得ることができるようになりました。

現場で経験した国連職員としての仕事は、高校生のときあこがれていたイメージとほとんど変わりませんでした。現地の人が、私の手をとって「ありがとう」と言ってくれたりすると、人の役に立っている実感がわいてうれしいものです。会計事務所にいたときは、監査人はある意味憎まれ役なので、「ありがとう」なんて言われたことがありませんでしたから。

今は、大変な思いをしても、必ず報われることを感じながら働いています。

The views expressed herein are those of the author and do not reflect the views of the United Nations World Food Programme.
本記事に記された見解は著者個人のものであり、国連世界食糧計画の見解を何ら反映するものではありません。

田島麻衣子(たじま・まいこ)
国連職員。東京生まれ。青山学院高等部、青山学院大学国際政治経済学部卒業後、KPMGに入社。オックスフォード大学院への留学などを経て、2006年より国連世界食糧計画(国連WFP)に勤務。これまでアメリカ、イギリス、フランス、イタリア、ラオス、アルメニアに日本を加えた7カ国に住んだ経験を持ち、共に働いたことのある同僚の出身国は、60カ国以上を数える。著書に人付き合いのコツと英語の学び方を伝える『世界で働く人になる』(アルク刊)がある。

構成=大井明子