過去の自慢話より「これから」を聞く

会う前には、あらかじめ顧客について調べておくといいでしょう。しかしこれだけネットで情報発信が行われるようになると、「知っていること」には価値がありません。逆に「御社のことを調べてきました」というアピールは、恩着せがましい印象すら与えてしまいます。

アピールの方法として、「最近、御社の商品がリニューアルしましたよね。僕は大成功だったと思います」と評論家のように話す人がいますが、感心しません。多くの人は、あなたの評価より自分の考えを聞いてもらいたいのです。だから、「なぜリニューアルしたんですか」「リニューアルの狙いは何ですか」と質問を投げかけたほうが、話が盛り上がります。

その際、相手が気持ちよさそうに喋るからといって、過去の業績ばかりを聞いてしまうと、商談が前に進みません。済んだことは誰に対しても同じ話になる。つまり、聞き役を選ばないのです。聞くべきことは「これからは何をやりたいんですか」という未来への展望です。

その時点で、将来なにをやりたいかという展望は、まだどこにも出ていない生の情報です。相手はルーティンでは語れないため、その場で思索を巡らせることになります。相手が自信満々で話しているときには、なかなか距離が詰まりません。しかし明確でないこと、決まっていないことを考えているときは、相手も揺らいでいる。距離を縮めるチャンスです。

そうした未来志向の話題で、相手が迷ったときには、「それはこういうことですか」と話題を整理しましょう。すると相手は「私の言いたいことがわかっているな」と思います。話が進むにつれて、相手はあなたの言葉を引用するようになるはずです。これは相手の頭の中に、あなたの存在がインプットされたから。これこそ、営業マンと顧客の間に「エンゲージメント(愛着)」が生まれた瞬間です。

もしあなたに、他の人には話さないようなことまで話すようになれば、それは相当の信頼を寄せている証拠です。たとえば「失敗談」について聞けると、かなり深い関係だといえます。

しかしそれを狙って、「失敗談を教えてください」と真正面から質問しても、「ここで話すことでもないんで」とお茶を濁されてしまうでしょう。そういうときには、自分の失敗談を明かして、先にさらけ出すことです。

「こんな経験あります?」と訊ねれば、「それはありますよ」と話しやすくなる。2人の間に高低差をつくらず、同じ位置にたつことが重要です。