基礎体温をつけることとファミリードクターを見つけることが第一歩

対馬先生は、性差医療の第一人者であり、男女の体の違いを踏まえたうえで「女性の不調にどう対応するのか」を考える医療を実践している。そこで、女性の体の特性について、少し詳しく説明していただこう。

「女性の体が男性ともっとも異なるのは、排卵月経周期があり、その周期によって体調に変動が出るということです。女性ホルモンは2種類あって、脳の集中力や記憶力を高めたり、精神を高揚させるエストロゲンと、体調や気分を不安定にさせるプロゲステロンが、周期的に出てきます。エストロゲンの分泌期(月経から排卵まで)は働きやすいのですが、プロゲステロンの分泌期(排卵から月経まで)は、不調やストレスを感じやすくなるので、仕事にも支障が出がちです」

しかし、自分のホルモン周期をきちんと把握して、どんな不調が現れやすいのかを自覚すれば、コントロールすることも可能だという。

「まずは、基礎体温をつけること。いまは便利な体温計も出ていますから簡単です。自身の体の周期を知るには手軽な方法でしょう。そして、いいファミリードクターを見つけること。これができれば安心です」

欧米では若いうちからファミリードクターをもつ習慣が定着しており、患者の体質や弱点などをきちんと把握したうえで、女性の不定愁訴についても適切なアドバイスや治療をしてくれる。しかし日本では、こうした仕組みがあまり浸透しておらず、「女性外来」もなかなか普及していないため、自分に合った医者を探すのは簡単ではないかもしれない。

「日本産科婦人科学会が女性のヘルスケアアドバイザーの育成なども始めているので、今後は状況が改善していくでしょう。ぜひ信頼できる相談相手を見つけて、会社の定期健診の結果なども積極的にフィードバックしてほしいですね。そうすれば、それが病気の早期発見にもつながります。また、ホルモンバランスが原因の体調不良については、例えば低用量ピルや漢方薬などの服用で、ある程度は症状を軽減することができます。低用量ピルにはエストロゲンとプロゲステロンが配合されており、避妊だけでなく、ホルモンバランスを整える効果がありますから」

そして最後に、対馬先生は次のように加えた。

「いまの日本は男性中心にシステム設計されていて、女性にとって、『健康を守りながら快適に働く』というのは、まだハードルが高いかもしれません。しかし女性が自身の体を理解し、どのようにすれば働きやすくなり、また産みやすくなるのかを考え、それを発信することが第一歩なのです。男性も女性の特性が理解できれば、お互いに協力し、働きやすい環境をつくっていけるはずです」