疲れやすい、体がだるい、食欲がない―。1年で最も体力を要するこの時期に、活力を奪い取っていく夏バテ。原因となる生活習慣は何か。有効な対処法はあるのか。ナビタスクリニックの理事長で医師の久住英二先生に話を聞いた。

久住英二(くすみ・えいじ)
ナビタスクリニック 理事長

1999年に新潟大学医学部医学科卒業。その後、国家公務員共済組合連合会虎の門病院血液内科医、東京大学医科学研究所・探索医療ヒューマンネットワークシステム部門客員研究員などを経て、2008年にJR立川駅にナビタスクリニック立川を開業。駅ナカで夜間診療を行うことで、忙しいビジネスパーソンが健康管理できるよう、一歩踏み出した医療サービスを提供している。現在は、川崎駅、新宿駅にもクリニックを開設し、西洋医学と東洋医学を併用した診療を行う。

 

汗が蒸発する環境が肝心!まずは空調の見直しから

夏バテの原因としてよく知られているものに、暑い屋外と冷房の効いた室内を行き来することなどによって引き起こされる自律神経の乱れがある。では、なぜ温度差が自律神経に影響を及ぼすのか。久住英二先生によると、それには人間の体の仕組みが深く関わっているようだ。

「ご存じのとおり、人間には体温を一定に保とうとする機能が備わっています。この機能を司っているのが自律神経ですが、温度の変化が大きい季節や環境であればあるほど、当然ハードワークが必要になります。もともとこの体温調節は、生命を維持するのに必要なエネルギーである基礎代謝のほとんどが使われる大仕事。そのため、温度差が激しい環境では、体温を上げる、下げる──が目まぐるしく入れ替わることになり、自律神経が乱れやすくなるのです」

ちなみに冬も室内外の温度差が大きく、体温との差は夏以上に激しくなるが、冬は温かい服を着こんだり、室内では上着を脱いだりすることができる。こうした対策のとれない夏は、屋外の猛烈な暑さと冷房の効いた室内の温度差をダイレクトに感じてしまうのだ。

では、温度差をなくすために冷房を切るのが正解かといえば、当然ながら答えはノーだ。久住先生は、ここ日本での夏バテ対策として、第一に空調を見直すことを挙げる。

「汗は基本的に体温を下げるためにかくものです。しかし、高温多湿な日本の場合、大体28度以上の暑さになると、汗をかいても蒸発しなくなります。この蒸発しない汗は、体内の熱を外に逃がさないため、体は暑熱にさらされ続けます。そのため体は疲労を蓄積していくばかりか、最終的には脱水症状につながる危険性も出てくるのです」

そうならないためにと水分補給を心がけている人は多い。だが久住先生は、ここでも注意すべき点を指摘する。

「水分補給はもちろん大事ですが、その水分が結局蒸発しない汗に変わってしまうようなら、少なくとも体温調節という側面からは意味がありません。まずはかいた汗がスムーズに蒸発する28度未満の環境をつくること。これが初めに行うべき夏バテ対策です」

ただ、気を付けたいのは就寝中だ。暑いからといって冷房をつけたまま寝たら風邪を引いたという経験はないだろうか。これには寝ている間の体温の変化が影響しているという。

「人は眠っている間は体温が低くなり、入眠時には発汗したりして体温を下げようとする機能を持っています。そのため、寝付き時の適温と、眠ってからの適温が異なるのです。ですから入眠時の適温だと夜中には寒さを感じ、結果風邪を引いてしまうのです」

最近では、就寝中の室温を細かく設定できる冷房器具などもあるが、すぐに買い替えるのは難しい。

「そんな時は、寝付く際の適温にエアコンを調節した上で、タオルケットなどとは別に、保温性の高い綿毛布などをそばに置いておくといいかもしれません」と久住先生は言う。

睡眠不足は夏バテに直結する要因の一つ。日中、ビジネスの現場で温度差を避けて通るのは難しいが、プライベートな空間では空調などに気を付けることで、夏を乗り切る活力を養いたいところだ。