スタートトゥデイ 売上高と会員数の推移

スタートトゥデイ 売上高と会員数の推移

百貨店が売り上げを落とす一方で、ネット通販の世界では消費者にリアルに寄り添ったビジネスが大成功をおさめている。国内最大級のファッション通販サイト・ゾゾタウンだ。

運営するスタートトゥデイは1998年の創業以来、破竹の勢いで成長を続け、2010年3月期の売上高は前期比60.4%増の171億円。営業利益率18.9%は百貨店平均の約10倍に相当する。会員は200万人を突破。男女比約半々、平均年齢28歳。ファッション感度の高い層から圧倒的な支持を受ける。

ゾゾの成功要因は、百貨店衰退要因の裏返しだ。代表取締役の前澤友作は当時を次のように振り返る。

「委託で商品を預かり、売れたモノだけ精算して、都合よく手数料収益を得ようという発想はまったくなかった。自分たちがいいと思うモノを買い取り、それを欲しがる人にちょっと利益を乗せて売るのが小売業だと考えていたので、普通にそれをやっただけです」

メジャーデビューを果たし、プロのミュージシャンとしての活躍経験もある前澤は、代官山や裏原宿の小さなセレクトショップを訪ねては「商品を扱わせてほしい」と依頼し、少しずつ品目を増やしていった。いわば、「目利きの商売」が原点だ。

商品取扱高が370億円(10年3月期)を超えたいまでも、扱うのは商品に愛情を持てる社員がいるブランドだけだ。「伸ばしていきたい」と思い行動するスタッフがいなければ売り上げにはつながらない。スタッフがつかないと判断されたブランドの出店は見送られるが、いったん導入した以上は在庫を売上高の2~3割に抑え、在庫管理を徹底する。ベースにあるのは、「このブランドを育てたい、伸ばしたい、売り切りたい」というスタッフのプライドと情熱だ。いま百貨店にもっとも欠けている要素ではないか。

ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイの前澤友作社長(中央)。スタッフのほぼ全員が最先端ファッションに身を包む。

ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイの前澤友作社長(中央)。スタッフのほぼ全員が最先端ファッションに身を包む。

ネット通販を利用しているのは、ゾゾが得意とする20代ばかりではない。30~40代を中心に売り上げを伸ばしている大手アパレルの直営サイトが、三陽商会が2年前に立ち上げたサンヨー・アイストアだ。客単価は3万円。まだ全体の売り上げの数%にすぎないが、伸び率は約5倍。今年はその倍の見込みだ。

とりわけ好調なのが、ラメやサテン使いを得意とする婦人服ブランドのエポカだ。百貨店にも出店しており、ジャケットなら6万~7万円、スカートなら3万円はする。やや派手めの高価格帯ブランドだ。そのエポカの10万円のカシミア100%のファー付きケープは、売り上げトップ5に入る売れ行きを示している。

アイストアをオープンするにあたり、ウェブビジネス推進室担当課長の川添勝宏が意識したのは、モノを作るメーカーとしてのアドバンテージを生かすことだった。

「モノを作る過程ではデザイナーからパタンナーや生産交渉など社内外でいろいろな人が関わっている。こうした人の思いを伝えていくために、コメントも実際に商品企画に携わる人間が担当し、手で触らなければわからない素材感やフォルムなど細部へのこだわりを記載しています。写真のクオリティも重視しました」

アイストアのトップページには扱いブランドがすべて並んでいるが、そこからお目当てのブランドのページに飛ぶと、コーディネート例やシーズンごとのテーマが登場する。「お客様はそのブランドが好きだからアイストアに来られるのだろうと考えた」(川添氏)からこその構成だ。

ITとはもっとも遠いところに位置すると考えられる顧客がアイストアを利用するのは、いつでもどこからでも注文できる利便性に加え、ブランドの世界観や魅力、商品の特徴がネット上でうまく表現されているからだろう。売り上げの飛躍的な伸び率は、同社のブランドが固定客をしっかりとつかんでいる表れだ。

※すべて雑誌掲載当時

(相澤 正=撮影 ライヴ・アート=地図作成)