政治家や中小企業は、主婦の味方? 敵?

この10月には、社会保険(健康保険や厚生年金保険など)加入の収入基準が年間130万円から106万円に引き下げられます。パートの主婦とすれば、これまでより少ない収入でも、社会保険が「天引き」されてしまうことになるわけです。

こうした国の動きに対して否定的な主婦は少なくありませんが、意外にも、政治家も決して前向きではありません。なぜなら、政治家の有力な支持者に中小企業の経営者が多いからです。

社会保険料の負担は、企業側と従業員との折半が原則。よって、加入基準が130万から106万円に引き下げられると、企業側の負担も増えます。政治家は、地元の中小企業の経営者からの支持を得なければ選挙で当選することが難しい。よって、今後さらなる、社会保険加入の「適用拡大」には反対する政治家が多いのです。

専門家によれば、専業主婦などの「第3号被保険者」をなくせば(第1号被保険者に移行)、長年にわたり財政危機が叫ばれている年金財政は健全化する可能性が高いと言われています。しかし、実際は、抵抗勢力もあり簡単に第3号被保険者をなくすことはできません。

実は、2000年代初頭のドイツも現在の日本と同じく経済不況の状態にありました。当時の首相シュレーダーはセーフティネットとしての社会保険の適用拡大を進めて、パートやアルバイトを含めたすべての労働者(被用者)を厚生年金に加入させる仕組みに変更しようと考えました(ほかにも、雇用市場と失業保険制度の改革、公的健康保険制度の改革などをワンセットで掲げました)。

これに対して、やはり中小企業が大反対しましたが、剛毅な性格のシュレーダーは次のように説得したのです。

「人を雇うということは、その人の一生に責任を持つことだ。社会保険料を払えないような企業はそもそも人を雇ってはいけないのだ」

しかも、シュレーダーは企業側と従業員側の負担割合を5:5ではなく、例えば7:3にしなさい、と言い出した。パートやアルバイトは手取りが少ないのだから、と。当然、中小企業の経営者は大いに怒り、選挙で負けたシュレーダーは政権を追われたのですが、あっぱれなことに関連の法律をすべて通した後で議会を解散したのです。

シュレーダーの後任として首相になったメルケルは「前の総理大臣の決断したことを尊重する」と言って、適用拡大が実現し、その結果、ドイツ経済は復活し大変強くなりました。