知事が自分たちの声を反映させる仕組み

【塩田】「女性の活躍」について、安倍内閣の取り組みに注文がありますか。

【吉村】「女性の活躍」を掲げているのは大変ありがたいと思っていますが、もっと力を入れてほしい。予算もまだまだ足りないと思います。「一億総活躍」という言葉が出てきましたけど、今までのような長時間労働だと、男女ともにそんなに幸せになれません。出産、育児にも関係します。今までのままではいけない、長時間労働を是正しなければと思います。フランスとか、成功例もありますでしょう。

私の場合、夫から「家にいてくれ」と言われ、同居している義母から「自分の子どもは自分の手で育てなさい」と言われました。嫌々ながらではなかったけど。私も働きたいという気持ちがずっとあったんです。

キャリアを中断させないで、もうちょっと緩やかな感じで、子育てしながら働ける環境づくりが大事です。育休で1~2年も休んだら、職場に戻ったとき、浦島太郎になってしまうので、逆に不安だと思います。実態に即して、子どもが小さいときは短時間働くことができるというふうにやってほしいと思います。

【塩田】安倍内閣が「地方創生」を唱え、地域の活性化が叫ばれていますが、一方で、長期デフレや人口減時代の到来、国際化なども影響して、地方の疲弊・衰退が深刻です。

【吉村】地方創生も、私はどうもソフトの部分だけが注目されているという気がしています。大震災の教訓でもありますが、国土開発といいますか、社会基盤をきっちりと整備する必要があります。太平洋側で何かあったら、日本海側が救援できるように、その逆もということで、全国を高速道路とフル規格の新幹線でつなぎ、地方空港も残して、陸海空、縦軸と横軸を整備すべきです。有事への備えとしても、政府が責任を持ってやってもらいたい。

モリノミクスも国土に関係しますが、国民だけでなく、国土も大事なんです。ネットワークとして動脈をつくり、全国に血液が流れるようにして初めて地方の経済が活性化します。それが地方創生だと思っています。それから、地方では進学と就職のときに人口が流出しますので、大学と会社を地方に分散していかないと、人口流出は止まらないと思っています。ですから、地方の大学をもっと充実してほしいと言っているんです。

【塩田】根本的な問題として、なんでも中央政府を当てにするのではなく、権限や財源を持った地方政府が自ら手を打てるようにするために、大きな分権改革が必要では。

【吉村】理想的には地方自治体が独立してやっていければ一番いいと思いますが、財政基盤があまりにも脆弱です。ですが、お願いするというのはおかしな話で、私は全国知事会でも「47都道府県が国をつくっている」と言っています。国を一部ずつ担っている知事たちが自分たちの声を国政に反映させることができる仕組みが必要です。「国対地方」と言ったりするのはおかしいです。知事は全員、国会に参加できるようにすべきだと思っています。調べてみたら、ドイツやロシア、アメリカなどの例がありました。

【塩田】国会の制度改革や二院制の問題があります。憲法改正も必要になるでしょうね。

【吉村】ええ。でも、本当にそれをやらなければいけないと思うんです。

吉村美栄子(よしむら・みえこ)
山形県知事
1951(昭和26)年5月、山形県西村山郡大江町生まれ(65歳)。旧姓は鈴木。山形県立山形西高校、お茶の水女子大学文教育学部を卒業。73~77年にリクルートに勤務。76年に吉村和彦と結婚。夫の父・吉村敏夫は元山形県出納長、夫の叔父・吉村和夫は元山形市長。1978年に山形に帰郷し、以後19年、主婦と子育てに(一男一女の母)。81年に行政書士の資格取得。97年に夫と死別する。以後も義父母と同居して、98年から山形市総合学習センター勤務。2000年に自宅で行政書士開業。その後、山形県の教育委員会、入札監視委員会、総合政策審議会などの委員を務めた。09年1月の山形知事選に無所属で出馬し、約1万票差で現職知事の齋藤弘を破る。13年に無投票再選し、現在は2期目。「尊敬する人物は」と尋ねると、デンマークのエンリコ・ミリウス・ダルガスという19世紀の政治家の名前を挙げた。1864年にデンマークがドイツ、オーストリアとの戦争に敗れ、国土の3分の1の肥沃な土地を奪われた。「残った国土をバラの咲く肥沃な土地に、と人々を鼓舞し、やり遂げた。理想の指導者は困ったときに希望を見出せるこういう人」と語る。
(澁谷高晴=撮影)
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