トランプもサンダースもポピュリストだ

今回のアメリカ大統領選を見ていても、ポピュリズムの台頭が著しい。予備選の話題をさらったトランプ現象もサンダース現象もポピュリズムの観点ではまったく同じなのだ。共和党の候補者指名レースを確実なものにしたドナルド・トランプ氏は大衆が聞きたいことをズバリと言う典型的なポピュリストだ。移民に仕事を奪われたと思っている白人の労働者階級には、「メキシコ国境に壁をつくれ」というトランプ発言は心地よく響く。ISなどイスラム過激派のテロに恐怖したり、怒りを覚えている人々に「イスラム教徒は入国禁止」というトランプ氏の主張は好感を持たれる。しかし、冷静に考えればメキシコ国境に万里の長城のような壁がつくれるはずがないし、メキシコに壁の建設費を払わせられるわけもない。

「ポピュリスト」と呼ばれる、米大統領選のドナルド・トランプ共和党候補。(写真=AFLO)

それに、いくらイスラム教徒の入国を禁じても、国内には約600万人のイスラム系移民がすでにいる。6月にフロリダで50人が死亡する最悪の銃乱射事件が起きた。射殺された容疑者はアフガニスタン系のアメリカ人で、イスラム過激派との関係が疑われたが、どうやら単独犯によるヘイトクライムの可能性が高いらしい。イスラム教徒の入国を禁じても、ホーム・グロウン・テロリスト(国外の過激思想に共鳴して、国内出身者が独自に引き起こすテロのこと)には何の効果もないのだ。

トランプ氏が右のポピュリストなら、左のポピュリストは民主党の指名争いで善戦したバーニー・サンダース氏だ。自ら「民主社会主義者」と名乗り、若者世代や白人のプア層に過大な公約をして旋風を巻き起こした。しかし、「公立大学の授業料無償化」とか「国民皆保険」とか、配る政策ばかりを主張して、財源についてはほとんど何も言っていない。

そもそも連邦政府の行政長である大統領になっても、公立大学の授業料を無償化する権限はない。アメリカの大学のほとんどはコミュニティカレッジ(2年生の短期大学)で、授業料がなくなったら運営が成り立たなくなるのだ。政府が授業料を補填しようものなら、税金がいくらあっても足りない。国民皆保険にしても、3000万人に医療保険を補填したオバマケア(オバマ政権による保健医療制度改革)でさえ限界ぎりぎりなのに、それを上回る制度改革が実現可能とはとても思えない。

つまりトランプ氏もサンダース氏も、できもしない公約を並べ立てて、受益者とおぼしき人々から熱狂的な支持を集めてきたのだ。これまでの大統領選挙でも、ロス・ペロー氏のようなポピュリストはいくらでも出てきた。しかし、マスコミのチェック機能が働いて、プライマリー(予備選)で排除されるのが通例だった。ところが今回は面白いように泡沫候補と思われたポピュリストが残った。なぜか。マスコミのチェック機能が弱くなったのも確かだが、大きな理由の一つは既存政党の当たり前の主張に飽き飽きしたり、不満を持つ人々が増えたからだろう。だから本命視されたヒラリー・クリントン氏が常識的なことを言えば言うほど「つまらない」候補として人気を落としてきたのだ。