黒人「逆差別」主張に同意する人々

移民の数が決して多いわけではないのに、離脱派が移民問題を理由にあげていた地域があったという報告も、重要な示唆を含んでいる。ここには、社会心理学の分野で「象徴的人種偏見」と呼ばれるものが見て取れるからである。

例えば、今日のアメリカで、「黒人は先天的に劣っている」などという時代錯誤的な人種偏見を持つ人は、もはや少数派であろうし、仮に公の場でそうした発言をしようものなら、社会的制裁や訴訟の対象になって損をするだけだという理解が広まっている。

ところが、「黒人は権利を主張しすぎだ」とか「彼らへの厚遇は逆差別である」といった意見には、依然として同意する人も多く、公然と主張されて論争のテーマになることすらある。その根底にあるのは、黒人のどこが悪いといった具体的なことではなく、自助努力をはじめとするアメリカ的価値観と、これに抵触する類の人々に対する嫌悪や反感といった、象徴的で多分にイデオロギー的な感情であるとされる。

同様の心理構造は、世界各地でさまざまな集団に対して向けられる偏見にも作用していることが指摘されている。また、象徴的偏見が、具体的な政策への支持や投票行動の要因として与える影響は、例えばその集団のおかげで自身の雇用や教育の機会が脅かされているかどうかといった、直接的な利害関係の影響よりも大きいことを示す研究結果もある。

今回のイギリスにおけるEU離脱賛成票の中には、移民に対する象徴的偏見の影響も含まれているのかもしれない。つまり、実際に移民のここが迷惑、あそこが害悪といった具体的・直接的経験がない人々ですら、シンボルやスローガンに基づく偏見の影響を受けたケースがあるかもしれないのである。同様の現象が、イギリスだけなく世界の各国、例えばアメリカ大統領選挙や日本においても同時代的に発生する可能性を感じさせる投票結果であった。

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